第15話 雹菜の知名度

「……ってわけよ。情けない話だろ?」


 退院祝いのパーティーもどきも結構な時間になってきて、俺はあの時のことを家族と慎に全て話した。

 もうすでに家族には大雑把なことは話してはいたけれど、検査に次ぐ検査と、意外に厳しい面会制限のせいでそれほど会話する時間がなかったため、ここで改めて詳しく話したのだ。

 その反応は、家族たちはなるほど、という感じだったが、慎だけは違った。

 まぁ、その理由も理解はできる。

 ただ……。


「お前……白宮雹菜に助けてもらったのか!? 嘘だろ!?」


 またこの反応か、という感じだった。

 俺はため息をついて、


「こんなことで嘘ついてどうするよ」


 と返答すると慎もそれには納得したようである。


「確かにな。だが、なるほどな。豚鬼将軍になんて遭遇して生きて帰ってこれても納得だぜ。確か白宮の次女はB級だったもんな」


「お前詳しいな。佳織もだけど」


「そりゃ、高校生ならSNSで話題の有名人くらい知ってるだろうが……まぁ、でも、彼女が有名になったのは半年前くらいからだからな。知ってても若者だけ、って感じなのは確かだな。テレビにも出てはいるけど、冒険者優先みたいだから普通にテレビ見てるくらいだったら知らなくても無理はない。ニュースになるほどの成果もまだないし」


「……なるほど」


 そういうことなら、俺と佳織の温度差も分かるな。

 やっぱり女子中高生というのは流行の最先端を走っているのだ。

 対して俺は、高校生の中でもじいさんとか長老とか呼ばれがちなロートルである。

 情報格差も仕方がない話だった。


「ただ、お前も姉貴の方は知ってるはずだぞ。就活で調べたはずだからな」


「っていうと?」


「名前でなんとなくピンとくるだろ?」


「……白宮雪乃代表のことか?」


 それは、《白王の静森》の代表冒険者の一人の名前だった。

 俺も高校生とはいえ、もう就活を始めている就活生でもある。

 そのため、主要ギルドの情報については人並みに収集していた。

 その中に、白宮雹菜の名前に酷似している名前があったのを記憶から引っ張り出す。

 なぜそんなに絞り出すようなのか、と言えば、冒険者ギルドというのは様々な構成があるのだが、《白王の静森》はいわゆる代表冒険者制というのをとっていて、複数人の経営決定権を持つ代表がいるのだ。

 全部で確か、四人だな。

 一人が最高代表冒険者と呼ばれる立場の人間で、これは水野誠吾という男性冒険者である。

 冒険者が現れた三十年前から冒険者一筋の人であり、この国でも最強格の一人だと言われる。

 通常、これだけ覚えればまぁ、十分で、他の三人については普通の会社だと副社長的な立場だな。

 だからうろ覚えだったのだった。

 俺の言葉に慎は頷き、


「そうだよ。その雹菜はその雪乃代表の妹なんだ。調べなかったのか?」


「流石に家族構成まで調べないだろ……」


「まぁ確かに、普通はそうか……たまたま妹も有名人なだけだし。しかし可愛かっただろ? なんか色気のある会話とかなかったのか?」


 少し茶化すように慎が言うが、俺は呆れて答える。


「お前、豚鬼将軍に殺されそうな状態でナンパとか出来るタイプ?」


「……まぁ……無理か……」


「少なくとも俺には無理だったよ。顔とかもあんまり確認してる暇がなかったな」


 まぁ、その一瞬でも相当にかわいい顔してるな、とは思ったが。

 そんなことを考えていると、家のインターフォンがなった。


「はーい!」


 と、台所にいた母がトタトタと玄関まで小走りで向かう。

 

「もしかして美佳ちゃんかな?」


 佳織が少し嬉しそうな顔でそう言ったが、次の瞬間、リビングの扉を開いて現れた人物に俺たちは度肝を抜かれた。


「あ、あの……ごめんなさい。お食事中に……」


 少し申し訳なさそうに現れたその人は、たった今話題にしていた……。


「し、白宮雹菜……さん!?」


 慎の叫び声が、リビングに響いたのだった。

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