第14話 帰宅
「……
家に戻り、扉を開けると同時にそう言って駆け寄ってきたのは、何と俺の幼なじみの慎だった。
俺とは違ってイケメンのその顔が、珍しく歪んでいる。
泣き笑いというか……。
「無事も無事よ。というか、どうしたんだ? お前……」
「どうしたもこうしたもあるかよ……お前が迷宮での怪我で入院することになったって学校で聞いて心配してたんだぞ! 一週間も来ないし……初めは軽傷だろうと思ってたんだが、これはとんでもねぇ重傷なんじゃねぇかって……」
それを聞いて俺は首を傾げる。
「ん? 俺の病状とか先生は話さなかったのか?」
「個人情報だから話せないって言ってたぜ」
「なるほど……まぁ、そりゃそうか?」
言いながら、どうだろう、変じゃないか、という気がした。
自分ではない誰かが学校を休んだ時、一応、先生たちは大雑把な病状くらい話してきたような気がする。
〜君は風邪で、とか、〜さんは骨折して、とか。
俺の場合はその程度の話すら個人情報だからって伝えられなかった……?
まぁ、最近の世の中だと、それくらいでも先生方の責任問題になるかもしれないから仕方がないとも考えることは出来る。
ともあれ、何か違和感があるので学校行ったら聞きに行ってみるか。
「あぁ、だから直接お前に話を聞こうと思って来たのよ。本当は美佳も来たがってたんだが、あいつ、《炎天房》で研修があって今日はどうしても来れないってよ」
《炎天房》は美佳が内定を勝ち取った、日本五大ギルドと言われる有名ギルドのうちの一つである。
あくまでも内定が出ただけで、そこに完全に決めたわけではないはずだが、やはり大きなギルドになってくるとせっかく内定を出した候補に逃げられるわけにはいかないのだろう。
研修などを定期的に行って、入りたいと思わせようとするらしい。
そんな話を前に父にしたら、バブルの頃の就活はそんなんだったなぁ、と懐かしそうに言っていた。
どちらにも縁のない俺にはものすごく羨ましい話だが……どうしようもないな、こればかりは。
運の問題だ。
「幼馴染と仕事とどっちが大事なんだ、って冗談で言いたくなる感じだが、内定の方が大事だな」
「そんなわけないだろ……絶対に明日は学校に来るようにって伝えとけって言われたぞ。まぁ、少なくともお前が今日退院だってのは
杏おばさん、というのは俺の母親のことだな。
天沢杏、というのがうちの母の名前だ。
ちなみに父は天沢
「別に本気で責めてるわけじゃねぇって……ともあれ、まずは中に入ろうぜ。今日は一緒に夕飯食べてくだろ? 豪華らしいぜ」
「それもさっき杏おばさんから誘われたからな。そのつもりだぜ。それで、何があったか詳しく聞かせてくれ」
「お兄ちゃん!? 全部荷物私に持たせるのおかしくない!?」
一通り話終わったところで、タクシーから俺の荷物を全部持ち出してきた佳織が家の扉を開けて入ってくる。
「……病み上がりだから全部持ったげる、って言ったのお前だろ……」
「そうだけど……あっ、慎兄さん! 来てたんだ!」
慎を見つけて、佳織が明るい顔でそう言う。
当たり前だが、慎は妹にとっても幼馴染だ。
「おう、佳織ちゃん。今日は夕飯ご馳走になるぜ」
「ぜひぜひ。これなら美佳ちゃんにも来て欲しかったな〜」
「あいつは今日は忙しいってよ……あ、荷物、俺も持つぜ」
俺がもたもたと靴を脱いでいる間、二人はテキパキと仕事をこなして中に入っていく。
俺が鈍いのは嘘ではなく本当にまだ、病み上がりだからだな。
異常はない、と言っても、まだうまく力が入らなかったり、フラつくところはある。
魔力欠乏の後遺症というやつらしい。
十日もすれば治る、という話なのでもう少しの辛抱なのだけどな。
そして、俺もまたリビングに向かって歩いていった。
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