第13話 検査結果と退院
「よっしゃ、退院だ!」
俺は病院の前で伸びをする。
結局、俺の入院は全部で一週間ほどとなった。
その中でも数日間は眠っていたらしいので、俺の感覚からすると三日くらいの感じだから大したものでもない。
ただ、その三日の中で詳細な体の検査が行われた。
正直、ここまでやるか?
というくらいに詳しく。
あんまり医療費が高くなっても困るので、予想される料金と、なんでこんなにたくさんの検査をしているのか詳しく聞いてみると、意外なことが分かった。
まず料金についてだが、今回の入院で俺が支払うべきものはほとんどゼロらしい。
というのも、迷宮において発生した《特異個体》に遭遇した結果の入院であり、こういう場合には冒険者省が主体となって創設した冒険者保険が使われるからだという。
俺はそんなものに加入した覚えはないのだが《乗代ダンジョン》の前で記載した芳名帳に名前を書いた場合、一時的に加入したものとみなされるようになっているらしい。
それに、たとえそれがなくても、冒険者高校の生徒には適用される制度が様々あり、結果的にどちらにしろ支払うべき金額はゼロになっていただろう、という話だった。
本当に冒険者に対する補償は極めて手厚いのだな、と実際に理解した。
ただなぜこれほどまでに手厚いかといえば簡単な話で、冒険者たちが迷宮や魔境で得てくる素材や魔道具などは極めて現代社会にとって重要な品ばかりだからだ。
あんまりにもやくざな商売だと社会から見做されて、なり手がいなくなってしまったらその時点でその国は国際競争の舞台から引き摺り下ろされることになる。
そのため、どんな国であっても似たような補償が冒険者には与えられるのだった。
ちなみに細かな検査の理由についてもまさにこの補償と同様であり、《乗代ダンジョン》で《特異個体》に遭遇したが故に何らかの異常が体に発生していないか詳しく調べることが冒険者省から出されている方針に適合するから、ということだった。
別に《乗代ダンジョン》に限らず、今回のような特殊な事態に遭遇し、生き残った冒険者がいたような場合にはこういった検査をするのが普通ということだ。
まぁ、本人が完全に拒否していたり、有名ギルド所属であるが故に自前でやるからいらないとか言ったりする場合はもちろんあるようだが、俺は冒険者を目指しているとはいえ、基本的にはただの高校生だからな……。
それに、俺自身もあの《特異個体》との遭遇で体がおかしくなっていないかどうかというのは気になっていたから、調べてくれてむしろありがたかった。
ほとんど人間ドッグというか、人間ドッグにプラスして、さらに詳しい検査もなされているので、今の俺の体には何の異常もないことが分かっている。
ただ、医者は首を傾げていたが。
いわく、あれだけ魔力が空っぽになっていたのには何か理由があるはずだ。
それなのにそれが見当たらないのはおかしい、と。
やはりスキルを持っていない人間は魔力を放出できない、というのが原則のようで、医者も当たり前のようにそれについて触れてきた。
俺がそれを出来ることは、これからは秘密にしておいた方がいいだろう。
まぁ、今までも秘密にしていたというか、みんなできるものだと思って特に言及もしてこなかったわけだが、これからは意識的に秘密にするということだ。
「お兄ちゃん、恥ずかしいから早くタクシーに乗ってよ。お父さんもお母さんも家で待ってるんだから。今日は退院祝いだっていいお肉とか買い込んでるんだよ?」
病院前に停められたタクシーの中から、佳織がそう言って急かす。
俺はこれから自宅に帰るわけだが、全快しているというのに過保護な家族たちが今回はこうしてタクシーまで用意してくれたのだった。
俺は佳織の言葉に従い、いそいそとそれに乗り込んで、
「なんか王様にでもなったみたいな気分だなぁ」
と言うと、
「今日くらいはそれでいいかもね。実際、豚鬼将軍になんて会って、生き残れるなんて物凄い偉業なんだから」
「別に戦って勝ったとかじゃないんだからぜんぜん胸を張れないんだが……」
「いいのいいの。さぁ、行こう」
そしてタクシーは俺たちの自宅まで、最短ルートを進んでいく。
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