第16話 歓迎

「さぁ、どうぞどうぞ。何もないところですが……!」


 そう言って席をすすめたのは慎である。

 これに俺は突っ込む。


「お前の家じゃないだろうが!」


「あぁ、悪い悪い。つい……」


「ついじゃねぇよ」


「まぁ、いいじゃない。慎くんもうちの子供みたいなものなんだし」


 そう言ったのはうちの母である。

 母は俺や佳織には結構厳しいのだが、慎には昔から甘い。

 慎がイケメンだから……というのは小さい頃から見てるからあり得ないが、理由がいまいち分からない。

 美佳に対してはどっちかというと俺たち寄りだしな。

 慎だけ、なんか扱いが違うのだ。

 謎すぎる。


「ほら、杏おばさんもこう言ってることだし……」


 そう言って、雹菜に視線を向ける慎。

 このやりとりを聞いていた彼女は、


「仲のいいご家族なのね……」

 

 と呟くが、これに佳織が、


「いやいや、慎兄さんは家族じゃないからね!?」


 と言う。

 雹菜はこれにくすくすと笑って、


「ええ、それは聞いてたら分かるけど、その……慎くん?も含めて家族みたいだから、いいなって」


「お、おぉ……これが美少女の微笑みか。佳織ちゃんや美佳とは迫力が違うな……!」


 慎がそんなことを言うと、佳織が、


「慎兄さん……?」


 と静かだが確かに圧力のある視線を向けて、慎は黙ったのだった。


 *****


「……本当に良かったのかしら? 私までご相伴に預かって……」


 恐縮した様子で、しかし確かに食卓についている雹菜だった。

 退院パーティーの続きである。

 幸い、まだまだ料理は残っているし、母も何か気合いを入れ始めてまた何か作り出しているから問題ないだろう。


「構わないんじゃないかな。みんな楽しそうだし……それにしても、有名人だったんだな。俺知らなかったよ」


 俺がそう言うと、雹菜は、


「姉さんの方が何十倍も有名だからね。私の方は、確かに最近は注目してもらったりしてるなって思うけど、そんなでもないの。まだB級だしね」


 と控えめに答える。

 俺に逃げろと言った時はそれこそ迫力のある鋭い声だったが、この穏やかな性格こそが彼女本来の性格なのかもしれない。

 

「B級でも、というか、その歳でB級って凄まじいと思うけどな……俺なんてギルドへの就職ですらおぼつかないのに」


 やっかみというわけではなく、端的な事実を述べた俺だったが、これに対して雹菜は少し驚いた顔で、


「……え? あれだけのことが出来るのに……!?」


 と言ってきた。

 俺は首を傾げて、


「あれだけのこと? 何もできんが……俺はスキルひとつもないしな。あの時だって雹菜さんが助けてくれたんだろ? 気絶したから何にも覚えてないけど」


「……そう、だったの……うーん……ねぇ、創さん。ちょっと二人きりでお話しできない?」


「え? なんで?」


 流石に俺もこれだけの美少女にそんな風に誘われたら、ちょっと心がときめくけれど、まさか俺に惚れたわけでもあるまいと言うのははっきり分かっている。

 だから純粋な疑問だった。

 これに雹菜は、


「……あんまり公には出来ない話がいくつかあるの。あの豚鬼将軍のこととかね、と言ったら理解してもらえる?」


「あ、あぁ……まぁ、そういうことなら。おい、慎、佳織、ちょっと俺と雹菜さんは出てくるな」


 二人でさっきの話を蒸し返しながら会話していた慎と佳織にそう言うと、二人とも少し驚いた顔をしていたので、何か勘違いされているな、と思った俺は言い訳がましく、


「こないだのことで、色々と秘密の話があるんだとさ」


 と言った。それで空気が少し弛緩したというか、なんだ、という顔つきをする二人。

 さらに俺に続けて雹菜の方も、


「あの時のことはあまり大勢の人には漏らせないから。創さんは当事者だから色々と聞き取りをしておきたくて。ごめんなさい」


 と援護してくれたので、佳織も慎も、


「いいえ、こんなお兄ちゃんならいくらでも持ってってください! 問題ないです!」


「そうそう、どんどんこき使ってやってください! 出来ればギルドで雇ってやってくれると幼馴染としても安心できて嬉しいです!」


 そんなことを言って送り出してくれた。

 慎がちゃっかり、俺の就職をどうにかしようとしてくれているのはありがたかった。

 まぁ、こんなことで決まるわけもないだろうが。


「じゃあ、雹菜さん。行こうか」


「ええ……ねぇ、創さん。私と貴方は同い年なんだから……その」


「ん?」


「雹菜、でいいわよ。私も呼び捨てで構わないかしら?」


「あぁ……そう言われるとそうだな。わかった。そうしようか」


 そう言うことになった。

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