第76話 武具について

「でも、どれも調べても出てこない品ばかりなんだ……だから、使ってもいいものかどうかまず確認したくて」


 一般的な品は、迷宮品でもそれこそネットで検索すれば分かる。

 しかし、似たような品はあるにしても、全く同じものは見つからなかった。

 魔石については大きさや色からおおむねの値段の目安のようなものは付けられたが、それでもそれも正しいかどうかは分からなかった。

 収納袋のような例があるからだ。

 魔石は現代社会において、いわゆる電池のような使い方がされることが多いが、用途はそれだけに限られない。

 武具に加工することも出来るし、魔道具を作る時の素材にもなる。

 その他にも色々とあり、要は少し前の世界における、金属みたいな扱いに近い。

 鉄やアルミクラスのものもあれば、金銀クラスのものもある、と言えばいいだろうか。

 そのため、魔石はどんなに小さく、魔力量が小さなものでも必ず売れる。

 冒険者の収入源として一番ポピュラーなものだな。

 大きさの割に価格が高いから、それこそ収納袋とか、それに近いものを持っている冒険者以外にとっては、これを多く得るのが最も簡単に収入を上げる方法だったりもする。

 また、剣と鎧についてだが……これらは、出来ることなら俺たちで使いたいと思っていた。

 俺は《豚鬼将軍の黒剣》があるから、剣はいいのだが、慎が使えるならちょうどいいし、鎧の方は俺が、そして魔石は美佳が持つことにして杖などに加工して貰えば、うまく分割できるかな、というのもある。

 金銭にした上で、三分割、という方法でもいいのだが、あのボスモンスターが特殊であることは分かっていて、出てきたドロップ品も特殊だろう、というのも想像はついていた。

 収納袋については割とあると言われてたからそこまで価値がわかっていなかったため、武具の方が高そうだ、と思っていたわけだが、この感じだとそうとも限らなそうだ。

 それとも、収納袋よりも価値のあるものなのか……。

 ただ、何にしてもある程度鑑定がつかなければ、いきなり使うのは危険だ。

 このことは、それこそ学校で習うことで、ドロップ品には呪いやおかしな効果がついているものも少なくない。

 そのことを恐れて、俺たちは雹菜とも相談したかったのだ。


「なるほど、有名なところだと《狂気の鎌》とか《不死の鎧》とかあるものね……いきなり身に付けなかったのは正しいわ」


 俺たちの不安を理解して、雹菜はそう言った。


「《狂気の鎌》は確か、使用者の気が狂ってしまって、敵味方関係なく暴れ始めるっていう、強力な呪いの武器だったよね」


「そうよ、美佳。そして、《不死の鎧》は、装着者を確かに不死にはするものの、それは意思のないアンデッドとして、永遠に鎧に使い続けられる存在にする、という意味だわ。あれを身に付けた冒険者は今でも東北の魔境で領域を拡大し続けてて……まぁ、ほぼ討伐不可だと言われてるくらいね。いつかは何とかしたいものだけど」


「えっ、そうなの? でも討伐されたって授業では……」


「政府の情報隠蔽ね……いまだにそんなものが放置されてる、なんて広まったらみんな不安に思うでしょ? まぁ、何もせずに放置してるわけじゃなくて、一応何度かトップギルドで攻略に挑戦してはいるけど、いまだになんともね。ともあれ、そんなものを生み出しかねない装備の可能性は、ないとは言えないわね……ちょっと待って」


 雹菜はそう言って立ち上がり、部屋の奥をガサゴソといじる。

 すると、音を立てて壁がひっくり返り、そしてそこから大量の魔導具が出現した。

 壁にいくつも武具もかけてあって、まるで映画だ。

 雹菜は驚くことなく、


「……ええと、この辺に……あ、あったあった。《呪鑑定のモノクル》!」


 と言って、モノクルと手に取り、戻ってくる。


「これをつけて人やものを見ると、呪いがかかってるかどうか、分かるのよ。私が迷宮で見つけてきたの」


 嬉しそうにそう言うが、


「俺たちはどっちかというと、あの壁の仕組みの方を知りたいけどな……」


「ここ、以前は他の冒険者が住んでて、いろんなギミックがあるのよ。面白いから借りたの。あとセキュリティもしっかりしてるからね」


「そんなところどうやって見つけたんですか?」


 慎の質問に雹菜は、


「高位冒険者に対して不動産を専門的に斡旋してる業者もあるのよ。隙間産業ね……さてさて、呪いの有無は、と……うん、大丈夫そうね。呪いはかかってないわよ、鎧も剣も。ただ、詳しいことはやっぱり武具の鑑定スキル持ってる人のところ行かないとダメね……」


 そう言ったのだった。

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