第77話 権限の声

 それから、雹菜は武具については後で鑑定業者に連絡を取ってくれること、それに魔石の杖への加工についても適切な職人を探してくれることを約束してくれた。


「本当に何から何まで……ありがたいけど、いいのか?」


 俺がそう尋ねると雹菜は首を横に振って言う。


「構わないわよ。いずれみんな、私のギルドのメンバーになるんだから……っていうのは冗談にしても、もう友達でしょ。しかも、同じ秘密を共有する。これくらいなんでもないわ」


「こうなるともう、勧誘をもう断りにくくなっちゃいましたね」


 慎が肩を竦めてそう言ったが、これも冗談じみた口調だ。

 別に断ったところで雹菜がクレームを言うとか、そんな可能性はないと分かっているから言えることだった。


「さて、これであらかた話すべき事は話せたかしら?」


 和やかに雑談が始まりそうな雰囲気の中、雹菜が最後の確認にとそう尋ねてきたので、あっ、と俺は思い出して言う。


「あるある。もう一つだけ」


「なに?」


「声が聞こえてきたって話あったろ」


「ええ、ボス部屋に入ったときのよね」


「それもあるけど、そっちについてはもう話しただろ。じゃなくてさ、ボスを倒した後にも聞こえたんだ」


「……重要な話じゃない。なんで黙って……って、色々話すこと多すぎたからね。で、なんて声が? それにその声って、慎君と美佳には聞こえたの? 入ったときのは聞こえなかったみたいだけど」


「私には聞こえたよ。でも、あのときはちょっと必死で、なんて言ってたか正確には……」


「俺は気絶してましたから分からないです。でも美佳が聞いたなら、俺も起きてたら聞こえてたんじゃないかな……」


 二人がそう言った。

 続けて俺も言う。


「俺はなんとなくは覚えてる。《オリジンによるイベントボス討伐を確認しました》《新たな権限が解放されます。この権限解放は、全ての冒険者に適用され、通知されます……》って言ってたところまでは。その後も何かぶつぶつ言ってたんだけど、俺も慎のことで必死で覚えてないんだ」


「重要な部分が抜けている感じが凄いわね……いえ、でも、新たな権限が解放されます、と言うところだけでも十分な情報だわ。一体どんなものか分からないけど……やっぱり《ステータスプレート》みたいなものが、解放されると見て良さそうよね……」


「でも今のところ解放された様子はないですよね? それに全ての冒険者に適用され、通知されます、っていうのなら、もう既に適用されてるなら通知もされてるはずだと思うんですけど、雹菜さんは何か声を聞いたりしました?」


「いいえ。何も聞いてないわ。私も、それに周りの冒険者もそうね。貴方たちの周りは?」


 尋ねられて、俺が答える。


「学校で何か声を聞いたって言ってる奴は一人もいなかったと思うよ。美佳は?」


 女子の方はどうかと思っての質問だった。

 俺だって女子と話すことには話すが、男と違ってそんなに長々話すことがないからな。

 美佳は小さな頃から知ってるから別だが。


「女子の方でもそういう話が話題になることは今のところ無いわね。メッセとかでも誰も言及しないし……ってことはみんな聞いてない、って事で良いと思う。あの声は、あの場所でだけ聞こえたんでしょう。で、全員に通知されるっていうのなら、それはこれからって事だと思う」


「これから、か。また何か起こるのね……けど、《ステータスプレート》の例をとってみると、悪い話ではなさそうよね。あれは、私たちの利益になることだったわ。今度の権限解放というのも、やっぱり何かしらのメリットがあることを期待できるんじゃないかしら」


「なんだかんだ、人類は迷宮や魔物に押されがちで、このまま緩やかな滅びが、って話はよくワイドショーとかでも話されてることだしな……魔物と戦うために、便利な権限とやらが来れば、出来ることも増えるか……」


「それこそ、強力な魔物に支配されている魔境を解放することも出来るかも知れないわね。今は、ほとんどの魔境は手のつけようがないから……アメリカと西華せいか共和国で一つずつ、かなり無理矢理なんとかした例があるだけだし」


 西華は二十年前に分裂した、いわゆる旧中国だったところにある国の一つだ。

 他に三つの国が興っているが、それは迷宮と魔境があの広大で多大な人口を抱える国家を分裂させてしまったからだ。

 今もかなり揉めているが、かといってそれ以外の他の国とどうこうということもあまりない。

 というのは、今の時代、どの国も自国内の迷宮と魔境への対処に必死だからだ。

 同じ敵がいれば団結する、とは言うが、最低限、人間同士で殺し合うよりも魔物をまずどうにかしようという方向だけは同じように見れてはいるのだった。

 まぁ、これから先どうなるかは全く予想できないが。


 それからしばらく、俺たちは世界情勢の話をして、新しい権限解放についてはそれが来たときに考えることにしよう、ということになった。

 それまでは雹菜は新しいギルドの立ち上げを、俺はその手伝いを、そして慎と美佳はその間に身の振り方を考える、ということになった。

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