第78話 ギルド創設まで
それからは怒濤の日々が過ぎていったと言える。
まず、俺の特殊性……《オリジン》として、迷宮に潜ったときに何が起こるのかの確認を雹菜と何度か行ったが、意外なことに何も起こらなかった。
同じ迷宮に潜ったり、少し深いところに行ったり、別の迷宮を探索してみたりしたのだが、結局何もなくて拍子抜けしたくらいだ。
「もう全て起きるべき事は起きたか、それとも条件が満たされてないから何も起こらないか、ってところね」
雹菜はそう言っていた。
実際のところどっちなのだか、他の可能性があるのかも分からないが、おそらくは条件が何か足りてない可能性が高いだろう、とは思っている。
これについては雹菜も同感のようだった。
「権限の追加、というのがこれだけで終わる気がしないもの」
そういうことだった。
そうそう、権限の追加、ということで何が起こるのか少し怯えながらも、楽しみにしていた俺たちだったが、結果として追加された権限というのは、やはり《ステータスプレート》がらみだった。
《ステータスプレート》に《職業》という欄が追加されたのだ。
これについてはあの《声》が言っていた通り、世界中に通知され、《ステータスプレート》を持っている人間全てにその欄が追加されている。
この《職業》というのは、いわゆる一般的な、医者とか教師とか弁護士、みたいなものとは異なる、冒険者としての……ゲームのような《ジョブ》を指すようで、何かしらの条件を満たして《職業》につくことにより、新しいスキルを得たり、ステータスに変化が生じるようだ。
ようだ、というのは実際にこの《職業》についている人間はまだおらず、皆、空欄のままであるため未確認だからだ。
迷宮を探せば見つかるのか、他の方法が必要なのかも含めて、まだ分からない。
これから要検証というか、全世界の冒険者達が死に物狂いでその方法を探しているところだった。
ただ、そんな中、俺たちはと言えば、ギルド創設に向けて動いていたため、そういった華やかな話題からはしばらく離れていた。
具体的には三ヶ月くらいは。
そのため、雹菜もあまり冒険者としての本業はしておらず、事務屋と化している。
やはり、新しいギルド創設というのは簡単なことでなく、提出する書類や登記手続き、出資金とか資格証明とか、やることが多岐にわたって、雹菜の顔色が珍しく悪くなっていたくらいだ。
けれど、俺に出来ることは残念ながら大して無く、雹菜の家に入り浸りながら、書類提出のためのお使いとか、食事の買い出しとか、最終的にはほとんどの家事を担当することになった。
今では俺の仮眠室まで雹菜の家にはあって、なんだか冷静になって考えてみると、これはほぼ同棲なんじゃないか、という気がする。
雹菜は初めは悩んでいたが、最終的に利便性を取って、うちに泊まればそれでいいじゃないと言い始めた。
その時には、俺も俺でお使いで忙しくて頭が働かなくなっていて、色気も何もなかったので特に葛藤なく、じゃあ、ということになったが、果たしてこれで良かったのかどうかは、謎だ。
「そういえば創。今日、この書類提出して、受理されれば来月にはギルド創設、ってことになるけど……学校には就職先、もう報告したの?」
「いや、まだだよ。今月末が卒業式だし、もう登校日も三日くらいしかないから、学校に行く機会がなくて……」
「だったら早い内に言っちゃいなさいよ。学校も心配してるでしょうし。流石にこの時期にまだ内定がない、となるとね」
「それはそうだけど……まだギルド名、決めてないだろ? そこ決まらないと言えないだろ……」
「あー、そうね、うっかりしてたわ……でもねぇ、悩んでるのよね。皆、私に決めてくれって丸投げだし」
皆とは、俺と慎と美佳のことだな。
結局、二人とも雹菜の創設するギルドに入ることに決まった。
美佳は《炎天房》にしっかりと上級回復薬を返却し、正式に内定を断ったし、慎もいくつかもらった内定に断りを入れている。
二人ともかなり有望と見られていたようで、理由をかなり詰められたようだが、他のところに決めたから、ということで通していた。
通常であれば内定辞退をメールなり電話なりで伝えればそれで終わりなのだが、それで済まなかったことが二人の優秀さを示しているな……。
「丸投げって言うか、ギルド創設者はあくまでも雹菜だからな。ギルドリーダーも雹菜だし、そこは決めて欲しいって言うのがみんなの意見で……」
「それは分かるけど……あーっ! 出てこない! 何も出てこない!」
珍しく叫んでいるその姿は、ここでしか見られない雹菜の無防備な表情であった。
「頑張ってくれ、リーダー……応援してるから」
「困ったわ……」
途方に暮れる雹菜なのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます