第75話 ドロップ品の取り扱い

 雹菜の表情に、このドロップ品がどれだけのものかをやっと理解し始めた俺たちだった。

 一応、俺たちだって学校で、どんなドロップ品がどれくらいの価値があるか、ということを学ぶ授業もある。

 だからそこまで価値観が狂ってるつもりもなかった。

 収納袋だって、高いというのはわかっていたが、一般的な品だと数百万円だせば買うことが出来ると学んだ。

 ただ、考えてみれば、授業ではその収納力とか、中に入れたものがどうなるのかとか、その辺りについての詳細な記載はなかった。

 大規模ギルドではかなりの容量を持ったものをいくつも所有してるとか、そんな話は教師からされたし、いつか手に入れたいな、みたいな話も生徒同士でしていたのだが、それくらいで……。


「ま、仕方ないわね。いくつかの魔道具については、意図的に価値が分かりにくいように情報操作されてるから。収納袋なんかはその代表格。もちろん、ゲームなんかでもよく出てくる品だから、みんな色々知ろうとするのだけど、調べても大したことが分からないようになってるのよ」


「じゃあどうやって手に入れるんだ?」


 俺が尋ねると、


「オークションがあるわよ」


 と雹菜は答える。


「私たちも冒険者省から許可が降りてる冒険者用のネットオークションとかはいくつか見たんだけど……でも収納袋はなかったなぁ。魔石とか迷宮品の武具とかが大半で。素材もあったけど大したものはなかったかも」


 美佳がそう答える。

 基本的にそういうネットオークションは、冒険者に対してのみ与えられるIDがないと見れないが、俺たちは学校で冒険者見習いとして仮IDをもらっているので見ることは出来るのだ。

 買うことはできないけどな。

 あくまでも、学習上必要だから見ることができるようになってるだけだ。

 そもそも、美佳は大したものはなかったというが、実際にはその辺に売ってるものと比べれば色々な意味でとてつもないものが並んでいる。

 品質や効果もそうだし、もっと端的に言えば価格からして違う。

 普通に何十万の品ばかりだ。

 俺たちのような冒険者見習いは、せいぜい数万円のものが使えればいい方、ということだな。

 

「その辺りのネットオークションは下位冒険者が主に使うものばかりだからね。高位冒険者が持ってくるような品は、ネットオークションで流されるよりも、競売会社が競売してることが多いわよ。特に珍しいもの、価値の高いものについてはそれこそ限られた人間だけに招待状が届くようなね」


「聞いたことはありますけど……この収納袋も、売るとしたそういうことに?」


 慎が尋ねると雹菜は頷いた。


「そうね……これだと数億……いいえ、数十億出す人間がいてもおかしくはないわ。何せ、世界で初めて見つかった……かどうかは正直分からないのだけど、私は聞いたことがないからね。競売に出て来ればそれくらいの値段はつくでしょう」


「数十億っ……」


 三人で息を呑んだ。


「まぁでも、流石にこれは売らない方がいいわ。どこで手に入れたとかそんなことを聞かれるために誘拐・拷問されかねないからね。みんなで使った方がいいわよ」


「……使っても大丈夫なのか?」


「目立つような使い方をすればまずいけど……外見からは全く分からないからね。《時間停止》とかに類する効果があるかもってのは。一応、あとでいくつか検証しましょう。ま、普段使いの収納袋は私の方でみんなの分も手に入れておくから安心して」


「簡単に言うな……」


「普通のは、手に入れられるのよ。ないと不便でしょ? これも、今はまだ使いにくいだろうし」


「目をつけられるかもしれないと考えると、その方がいいですね」


 慎が頷いた。


「で、他のドロップ品はこの中ってことでいいわよね? これだけってわけじゃないんでしょ?」


「あぁ、そうだった。テーブルの上……に出すにはちょっと問題のあるものもあるから、とりあえず出せるものだけ……」


 俺が収納袋の中に手を突っ込んで、一つ一つ出していく。

 頭の中で念じると、中身が手に吸い付いてくるような妙な感覚だった。


「……これは……鎧と、魔石ね。剣も? 随分いっぱい出たのね……!」

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