第83話 九十九紬
公的な行事としての、ギルド創設式が終わった後は、別会場で懇親会が行われた。
誰との懇親会なのか、と言えばギルド関係の関係者達との、である。
たとえば、先ほどの三笠大臣のような役所側の関係者が代表的だな。
他にも関連団体とか、企業とか、色々なところから人がやってきていて、いずれも先ほどの創設式に参加していた者たちだ。
まだ創設したばかりの新人達に対して、顔つなぎでもないだろう、という気もするが、ギルドというのは現代の社会ではそれだけ重視されている存在であるということである。
役所からすれば、市民を魔物という危険から自主的に守ってくれる準自衛隊・警察的な機能を期待された存在であるし、企業からすれば迷宮や魔物からしか得られない、貴重な素材を回収・売却してくれる素材収集業者としての価値がある。
これらの冒険者の価値は、他の何物にも代えがたいもので、だからこそ、冒険者というのは今の社会において必要不可欠なものと考えられているわけだ。
さらに、親交を深めるべき相手は、そういった取引先ばかりではなく……。
「雹菜ぁぁぁぁーっ!!」
と、どこかから大声で雹菜の名前を呼ぶ声が会場に響く。
とは言っても、会場内には声が大きな冒険者や冒険者上がりの者が多く、比較的ガヤガヤとしているので、それほど目立つ、というわけでもないのだが、若い女性の声はそれなりによく通った。
そのため、俺の隣でどこかの企業のお偉いさんと笑顔で話していた雹菜の耳にも届く。
彼女は声の方向を見つめ、声の主を発見すると、
「……げっ」
とあからさまに微妙な表情をする。
しかし、声の主はドスドス、と言った効果音が相応しいような歩き方でこちらに……いや、厳密に言うなら、雹菜に近づいてくる。
それを見て雹菜は諦めた顔で、たった今の今まで会話していた目の前の企業役員に、
「……知人が話したいようなので、申し訳ないのですが」
と断ると、こういう突拍子もない冒険者達の行動に慣れているのか、高齢の企業役員は穏やかに微笑んで、
「いえいえ、冒険者同士の親交というのも大事ですからな。特に、皆様と同じく本日ギルドを創設したライバルともなれば……。では、またいずれ」
そう言って別の島へとすんなりと移っていった。
こういったパーティーを何度も泳いできた者特有の、非常に空気を読んだ動きだった。
「雹菜っ!」
「……何よ、
呆れたような顔で、雹菜はそう言って、目の前の……でもないか。
大分低いところに視線を向ける。
紬、と呼ばれた女性……いや、少女は、雹菜よりだいぶ小さかった。
どう見ても小学生なのだが……。
「何よもなにも、あんた、私が創設許可証をもらってる勇姿を適当に流したでしょ!」
「……いえ? 気のせいじゃない。見てたわよ。かっこよかったわ~」
その会話で、少女が創設式の壇上で、許可証を受け取りながら雹菜を睨んでいた少女だったな、と思い出す。
「雹菜、彼女は?」
とりあえず自己紹介が必要だろうと俺が尋ねると、雹菜は言う。
「彼女は
俺の紹介もしてくれた。
「ええと……よろしくお願いします。九十九さん」
小学生に対して敬語もどうかな、と思わないでもないが、この世界は実力が全てである。
したがって、平ギルドメンバーである俺よりも、ギルドリーダーである彼女の方が偉いのだ、と思っての言葉遣いだった。
そもそも、小学生でギルド管理者の資格試験に合格ってすごくないか?
最年少では……。
そんな感心した視線を向けていた俺である。
しかし、紬はそんな俺の顔を胡乱げな目で見て、
「……ったでしょ」
「え?」
「私のこと、小学生だって思ったでしょ!!」
と叫ぶ。
「えっ? えーっと……」
小学生じゃないのか?
そう思って雹菜の方を見ると、彼女が苦笑しつつ言う。
「紬は中三よ。まぁ、もし貴方が紬を小学生だと思っても仕方が無いわ、創。なにせ、こーんなに小さいんだものね。ほっぺたもぷくぷくだし」
そして紬のほっぺたをつつき始める。
「むーっ! 私は! 立派なギルドリーダーなんだからね!」
言い返す紬に、仲が悪いのか、と一瞬思うも、
「それは分かってるわよ……で、結局何しに来たの?」
そうすぐに雹菜が返し、毒気を抜かれたようなあどけない表情で紬が、
「え? そ、それは……その、雹菜と話をしたくて……」
と返したので仲は良さそうだなと考えが変わる。
「ふーん、まぁいいけど、私となんていつでも話せるでしょ。今日だけしか会う機会のない人たちもいるんだし、貴方もギルドリーダーならその辺の顔つなぎをした方が……」
そう言ったところで、
「それは私のような人間のことを指して言っている、と理解しても構わないかな?」
と、重厚な声が後ろから響き、俺たちはそちらを振り向く。
するとそこには、冒険者省大臣、三笠が立っていた。
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