第82話 創設式

「……もって、ここにギルド創設を許可する。冒険者省大臣、三笠治」


 霞ヶ関に存在する堅牢な建物、冒険者省の中に存在する大ホールにそんな声が響いた。

 三笠治は冒険者省の大臣であり、元々は名の知れた冒険者だ。

 俺もテレビでよく見るが、今は冒険者として活動をすることはないという話だが、そんなの嘘だろ、と言いたくなるくらいに筋骨隆々の体型をしている。

 もちろん、議員であるからスーツ姿なのだが、パンパンというか……。

 そんな彼が今、ギルド創設許可証を手に持ち、目の前にいる人物……つまりは、白宮雹菜に渡すところだった。

 そう、今日こそが、ギルド創設式当日であった。

 そして今、そのメインイベントである、許可証の交付が行われているわけだ。

 静かに雹菜が許可証を手に取り、深く頭を下げ、それから、少し三笠大臣から耳打ちをされた後、こちらに戻ってくる。

 俺たちギルドの創設メンバーも当然、式には参加しているのだが、実際に受け取るのはリーダー、一人だ。

 大勢でもらうものでもないし、大臣の身の安全を考えてか周りにはSPもいる。

 多くの冒険者に囲まれると危険、ということなのかもしれない。 

 三笠大臣ならその辺の冒険者くらい、蹴散らしそうだけどな……。


「はー、緊張した」


 雹菜が戻ってきて、席に座った直後、小声でそう言った。


「珍しいな、雹菜が緊張なんて」


 俺がそう言うと、


「私だってたまには緊張するわよ。三笠大臣の前だし……それにちょっとテレビカメラが多いしね」


 周りを見ると、ホールのステージ上を移すテレビカメラが沢山あるのが分かる。

 キー局のものは大抵揃っていて、さっきまで雹菜をドアップで映していた。

 やはり雹菜の人気は相当なもののようで、雹菜がギルド創設を世間に公表すると、多くの人間が注目した。

 テレビではその話題がかなり流れているし、今日だって、あのカメラの多くは雹菜を映すために来ている。

 まぁ、ギルド創設式自体、それなりのニュースとして毎回テレビで報道されるのだが、せいぜい夕方の五分ニュースで軽く触れるくらいが普通だ。

 しかし今回はそうはならないだろう。


「人気者は大変ですね」


 慎が苦笑交じりにそう言うと、


「慎君もテレビに映ってたから、そのうち似たようなことになると思うわよ。顔はイケメンだからね」


「顔はって、中身もしっかりとイケメンですよ、俺は」


 胸を張って言い返す慎だが、間違いではないと俺は思う。

 何せ、自分の命を張って戦ったのだ、あの《ゴブリン暗黒騎士》と。

 あんな行動は、それこそ性格までイケメンじゃないと出来ないだろう。


「自分で言っちゃおしまいだけどね」


 美佳が吹き出しながらそう言う。

 さらに、


「……お前たち、まだ式は終わってないんだぞ。気を抜くな」


 俺たち全員に対してそう言ったのは、大人の声だった。 

 それは俺たちのギルド《無色の団》の最後の一人、治癒術師の守岡誠司だった。

 何故彼が、となるだろうが、彼はうちのギルドの問題点、つまりは治癒術師が今のところ一人もいない、というのを解決するために、雹菜が頼み込んで誘ったのだった。

 結果として、彼は《顧問》という形でギルドに加入したのだが、常時活動するというより、治癒術師が必要なときに来てもらう形になる。

 ギルドの創設の条件の一つに、治癒部を作ること、というのがあって、これを満たすには他に方法がなかった。

 もちろん、雹菜が大々的に声をかければ、いくら貴重とは言っても普通に治癒術師の一人や二人やってきてくれるだろうが、ただ雹菜目当てで来られても問題がある。

 もしうちが巨大ギルドだったら別にそれで入ってくれてもいいのだが、今のところ少人数でやっていくつもりなので、おかしな不和を生みかねないような存在を引き入れるわけにはいかなかった。

 その点、守岡は色々と理解があるし、雹菜とも古い付き合いだ。

 そして俺のおかしさにも感づいている節があった。

 だから、というわけだ。

 

「気を抜くなって言っても……もうやることはないですし……」


「そうなんだけどなぁ、雹菜。壇上の奴見てみろよ」


 言われてそちらに視線を向けると、そこには小学生くらいの女の子が許可状をもらうところで、けれど何故かこちら側……いや、より正確に言うなら、雹菜のことを睨み付けていた。


「……あの子」


「……知り合いか?」


 俺が尋ねると、雹菜は頷いて、


「まぁ、そうね。色々と関わりがあって……」

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