第81話 卒業式
「……三年間、色々あっただろう。ただ、ここで学んだことは、必ず、お前たちの助けになるはずだ。そのために、教員一同、厳しくしてきたつもりだ……そして、最後になるが、一つだけ、言わせてくれ」
卒業式が終わり、教室に集められた俺たち生徒。
教壇の上で語りかけているのは、言わずと知れた担任のカナ先だった。
彼の表情は、今まで一度も見たことがないものに染まっていて……具体的にいうと、少しばかり目が潤んでいる。
中年のおっさんの泣き顔なんて見苦しいだけだ、と言いたくなるかもしれないが、今まで一度も、そんな表情を見せなかったカナ先のそんな顔に、むしろ俺たち生徒の方が泣き出しそうだった。
いや、既にもう泣いてる奴が何人かいるな。
女生徒が多いが、一人二人、男でも泣いてる奴がいる。
まぁ、今時男が泣くな、でもないか。
カナ先はそんな俺たちを一通り見つめ、そして言った。
「誰も、決して、死ぬな。泥水を啜ってでも、なんでもいい。迷宮に潜っても、魔境に行っても、必ず、生きて帰って来い……俺が望むのは、それだけだ」
その言葉に、しーん、となる教室。
みんなその言葉を噛み締めているのだろう。
そして、そんな俺たちを見届けたカナ先は、
「じゃあ、しんみりした話はこれで終わりだ! 最後のホームルームを終了する。日直!」
「起立、注目、礼!」
そして全員の口から、いつもとは違って、
「金山先生、ありがとうございました!」
という大きな声が一斉に響き、そして俺たちの学校生活は終わったのだった。
*****
「いや、まさかカナ先があんなことを言うとはな……」「意外だったよな、だけど俺はジーンと来たぜ」「死なない、か。それが大事よね、本当に」
そんなクラスメイトたちの会話が教室のそこここで始まった。
カナ先はこの後のやることがあるようで、教室を去っていった。
ただ、大半の生徒にとっては、ここで彼とは永遠の別れ、というわけではなく、この後、夕方からレストランを借り切ったこのクラスでの打ち上げがあるのでそこでまた会うことになる。
公式でもなんでもない、クラスでの打ち上げなんて、担任を呼ぶか呼ばないかは自由で、呼ばないクラスも結構あると聞いた。
しかし、やはり、俺以外からは元々かなり好かれていたようで、カナ先は満場一致で呼ぶことに決まった。
そんな教室の中、
「……俺たちも打ち上げ、行ってもよかったのか?」
慎がそんなことを言う。
彼の制服のボタンを見ると、第二ボタンのみならず、すべてのボタンが引きちぎられて無くなっており、まるで山賊の襲撃にあったかのようだった。
しかしイケメンは何してもイケメンというか……この格好でも映えるのが凄いな。
「ギルドリーダーがいいって言ってたんだからいいだろ……って、適当に言ってるわけじゃなく、もう俺たちがやることはほぼないからな。今日は司法書士先生と登記について詰めに行っただけだよ。大勢で行くようなとこでもない」
「創、もはや雹菜さんの秘書と化してるな……」
「それで食っていけるならそれでもいいけど……」
意外にそんなここ数ヶ月の生活は居心地が良かった。
「何馬鹿なこと言ってんのよ。創にはやることがあるでしょ。私や慎ならともかく」
美佳が呆れたような表情をする。
「そのやることがなんなのかよくわからないからなぁ……」
核心については触れていないが、それは《オリジン》として何か、すべき役割があるだろう、ということだ。
俺が行動しなければ起こらないことが、何か必ずある。
そのはずだから。
「ま、いずれ分かるでしょ。例の職業については未だによく分からないみたいだけど……」
「死ぬ気でみんな探してるはずなのにな。どうしてなんだか」
慎が首を横に振る。
「それこそ、そのうち、を期待するしかないなぁ……ま、そろそろ移動しようぜ。打ち上げだ。まだ一応学生だからな。学生最後を楽しもうぜ」
俺がそういうと、二人とも頷いて、昇降口に向かった。
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