第417話 集落

「本当にゴブリンの集落があったわね……」


 雹菜が感嘆してそう言った。

 ひたすらに山を歩いて辿り着いたその場所には、複数のゴブリン達が歩き回る、小さな村のような光景があった。

 とはいえ、しっかりとした家屋などがあるわけでもなく、切り開かれた場所、という感じでもないのだが。

 森の中に出来た、たまたま少しばかり木々の少なくなった場所を利用して、枝や葉っぱ、蔓などを使ったテントのような形のドームを家としている。

 そんな感じだな。

 ちなみに、こんなところに人は入ってこないのだろうか、という点だが、当たり前ながら人が歩けそうな道からは大幅に外れている上、それなりに歩いたのでまず一般人は立ち寄ることは出来ないだろう。

 俺たちが普通に来られているのは、一般人とは遙かに隔絶したステータスを持つ冒険者だからに過ぎない。

 ゴブリンとて、一般人相手であれば平気で何人でも鏖殺出来るくらいの力を持っているのだから、同じ事だ。


『……少し待ってくれ。いきなり近づくと皆が怯える。先に俺が事情を話してくる』


「……だそうです」


 黒田さんがゴブリンの言葉を通訳してくれたので、俺と雹菜も頷いた。

 俺には通訳は不要だが、雹菜には必要だ。

 そもそも、黒田さんには俺はゴブリンの言葉が分かるようだ、とはまだ言ってないからな。

 言っても別にゴブリン語スキルが生えてきた、ということにしてもいいのだが、話せないのでおかしいということにもなりかねない。

 怪しまれそうなことは、必要になるまでは黙って奥に限る。

 

「それにしても、今後どうしていくつもりか教えて貰っても良いかな? もちろん、私は今日ここで見たこと、見つけたことは秘密保持契約があるから、そこについては心配して貰わなくても大丈夫だけど」


 黒田さんがそう言った。

 これがあるから、俺の細かい事情はともかく、ゴブリン語が分かる、くらいは言っても大丈夫ではあるんだけどな。

 黒田さんの言葉に雹菜が答える。


「うちには……というか、主要ギルドには政府から要請が来てるから、ゴブリンと交流を持てたことについては報告する必要があるでしょうね。それに、はぐれゴブリンがこうしてここで普通に生活していると言うことは、日本各地で……いえ、世界各地で同じような状況にあることは想像に難くないわ。加えて、ゴブリン語がスキルとしてある以上、交流を持った人間が沢山現れることもね。だから、隠して独占する、というのも賢い話ではないし」


 確かにそれはそうだな。

 断片的なようだが、それでもゴブリンが色々と情報を持っていることは確実なので、うちのギルドとしては独占できるならしておきたいが、それも難しいとなるなら功績にしてしまった方が良いだろう。

 黒田さんも頷いて、


「じゃあ、私も秘密をずっと抱え続けなければならない、みたいなことはないみたいだね」


「ええ。出来ることなら、黒田さんにはうちでしばらく専属契約して貰って、色々情報交換を担当して貰いたいわね。ギルドには所属してないフリーなんでしょ?」


 黒田さんと雹菜が普通に話しているのは、ここまで来る途中の雑談で、敬語はやめようということになったからだな。

 黒田さんの方が少し年上らしいのだが、その辺り気にならないというのでそういうことになった。

 そもそも冒険者同士だとある程度打ち解けるとそうなる傾向はある。

 特に女性同士は。

 男はこの辺、時間かかったり、時間かけても敬語は取れなかったりするなぁ……。

 雹菜の言葉に黒田さんは、


「そうしてもらえるとありがたいかなぁ。政府に報告ってなると、ゴブリン関係の仕事はそっちからってことになっちゃいそうだし。でも《無色の団》からってことでなら、関わる機会は多く出来そうだし」

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