第418話 集落の中

「ん? 政府からの依頼になると困るのか?」


 黒田さんの言葉が気になった俺がそう尋ねると、彼女は言う。


「困るというか……いや、やっぱり困るかな。政府はどうしてもお役所仕事だからね。細かい配慮とか相談とかうまくいかないことが多くて。でも、ギルドから直接依頼してもらえれば、相談もしやすいし、こうしてギルドリーダーとも直で話せるならなおさらに都合が良いから」


「そうなのか……」


 まぁ確かに納得のいく話でもある。

 政府はその辺り、融通が利かないところが多い。

 もちろん、依頼料についてもかなり渋かったりするし。

 そこを考えれば、ギルドから直接依頼を受けた方がやりやすいだろう。

 もちろん、そのギルドがろくでもないところだったらむしろ政府の方が安心だろうが、そこはフリーランス冒険者の判断だからな。

 うちのギルドを黒田さんがそこそこ信用してくれているということでもあり、ありがたい話だ。


「ここのゴブリン集落とはうちが交流を持つことになるわけだし、そうなると、確かにその方がいいのも間違いないわね。まぁ、政府から派遣されてくる人たちもいるでしょうけど、そこはうちがうまくやるわ。黒田さんには黒田さんが仕事に集中してもらえる環境を作ることを約束しましょう」


「ありがたい話だよ……あっ、ゴブリンさん、戻って来たみたい」


 見ると、確かに先ほどの個体がこちらに戻ってきた。

 彼は離せる距離まで来ると、


『皆の同意は得られた。乱暴なことはしないことを約束してくれるなら、集落の中に入ってきてくれて構わない』


 そう言ったので、黒田さんが、


『ぜひよろしく!』


 そう返答し、ゴブリンは頷いて先導を始めたのだった。


 *****


「……思ったよりしっかりと、村ね……全員ではないけど、しっかりとした服を着ているし」


 集落の中を歩きながら観察した雹菜の感想がそれだった。

 黒田さんがそれをゴブリンに伝えると、


『服は先ほど言った通り、普人の子供からもらったものばかりだ。大人のものも一応もらったのだが……流石に俺たちには大きすぎてな。切り取って他のものに使うなどしている』


 そう答えた。

 確かに見てみれば、テント状の家に布がかかっているところもあり、よく見てみればそれはつぎはぎにされた布だ。


「でも、針と糸はどうやって……?」


 俺の言葉を黒田さんが通訳すると、ゴブリンは、


『スキルで《鍛冶》と《錬金》を持つ者がいる。鉄についてはその辺にたまに落ちているのでな。それを使って、小さな金属具などは作れるのだ』


 とおどろくべき事を答える。

 思った以上にちゃんと文明があるようだ。

 まぁ、会話もかなり流暢だし、抽象的な概念も普通に使っている。

 人間と変わらない知性があることは、もはや明らかと言って良いだろう。

 獣でしかないような迷宮のゴブリンとは完全な別物だ。

 問題は共存できるかだが、攻撃的な性質は今のところ感じられない。

 あえて俺たちを集落に入れて、ボコボコにしようとか考えてたらまた話は別だが……魔力から感じるにそれはやろうとしても無理だろう。

 そこまで考えているのかどうかはまだ分からないが……。

 しっかりと交流できるなら、色々と有用な情報を得られそうに思う。

 スキルについても、俺たち地球の人間よりも詳しいかもしれない。

 それに、世界間の関係についても……。

 知識が断片的であることは既に分かっているので、その辺りだけ不安だが、お互いにとって有用な関係を築けるのではないだろうか。

 そんなことを期待しながら、俺たちは集落の中でも一番大きなテントに案内される。 

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