第416話 交渉

『交流……とは?』


 黒田さんと話しているゴブリンが首を傾げて尋ねた。

 流石に言葉の意味が分かっていないとか、そういうわけではない。

 そもそも話しているのはゴブリン語なのだからな。

 そうではなく、単純に何をもって交流とするのかが分からないのだろう。

 それは黒田さんも察して言う。


『今みたいに対話をしたり……情報交換したりするような間柄になれないかってこと。食料とか衣服とかも提供できるよ』


 これは別に黒田さんの独断というわけではなく、雹菜がもしゴブリンと話せた場合に何か対価を求められたら可能な限り出す、という前提で話して貰って良いと言っていた。

 黒田さんの提案にゴブリンは、


『それは……願ってもない話だが、いいのか? この世界の支配者は普人なのだろう? そこに俺のようなゴブリンがいることを許せるのか』


『……? それは別にいいんじゃないかな。こうやって理性的に会話できる存在なら、それで』


 ゴブリンの方の不安というか疑問は、黒田さんには分からないことだな。

 ペルシュの話を前提に考えると、他の世界の種族を受け入れてもいいのか、そういうような意味合いになるだろう。

 それはその世界にとって、重大な決断になるのだと思う。

 ゴブリンがどこまでそのことをについて意味や理由を知っているのかは分からないが、記憶がおぼろげでも、それなりに大事なことだというのは分かっているのだろう。

 だからこその質問だ。

 それだけに気軽に答えて良かったのかという気もするが、そもそもその決断は俺がペルシュから称号を受け取り、この世界に戻ってきた時点でなされてしまったもののような気がする。

 今からゴブリンを見つけても全て皆殺しにする、という選択肢もないではないだろうが、流石にそれはな……。

 そもそも、世界の人口は毎年大きく減少していっている。

 ゴブリンが増えてそこを補える部分があるのなら、むしろ受け入れた方がいいだろう。

 見る限り、知恵のあるゴブリンはかなり温厚で理性的だしな。

 まぁそれはペルシュと話して分かってはいたことであるが。


 ゴブリンはそして、黒田さんに言う。


『……わかった。ありがたい話だ。乗らせて貰おう』


 どうやら、交渉は成立したようだ。


『ありがとう。じゃあ、どうしようか。とりあえず……私たちの拠点に来てもらえる?』


 この拠点とは、俺たちのギルド本部か支部のことだな。

 しかしゴブリンは、


『いや……まず仲間達にも連絡しなければならない。その後ならば……』


 と言ってきた。


『えっと、仲間?』


『あぁ。同じ種族同士で小さいながら集落を築いた。といっても、粗末なものだが……』


 これは驚くべき話だ。

 はぐれというから一匹しかいないと思っていたのだが……。

 黒田さんも同様で、だか尋ねた。


『……どれくらいの数がいるの?』


『十五人だな……ふむ、共に来るか? それなりに歩くが……』


『いいの!?』


『俺たちに攻撃するつもりはないのだろう? ならば構わない』


『それはありがたいけど……ちょっと不用心じゃ?』


『俺にもスキルは使える。他人の言っていることに悪意や嘘があるかどうか分かる……《看破》というスキルだ』


『なるほど……ゴブリンにもスキルが使えるんだね……あっ、そうだ、そういうことなら、私も仲間を呼んで良いかな?』


『仲間がいたのか?』


『うん、実は少し離れたところで見守って貰ってて……』


『なるほど、構わない』


 そう言われたところで、黒田さんが、


「お二人ともー! 来ていいそうです!」


 と叫んできたため、俺たちは姿を現す。


『ほう……驚いたな。全く気配がなかった』


 ゴブリンが少し目を見開いていたので、本心なのだろう。


『とっても強い人たちだからね。多分』


 黒田さんが、ゴブリンにそう言った。

 多分、なのは俺の方の実力が分からないからだろう。

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