第235話 星

「なぁ、ミリア」


「なんでしょう?」


「十五、六の子供に、冒険者以外の道ってないのか?」


 俺が言えたことではないが、冒険者など命を賭金にして稼ぐしかない、無頼者の職業だ。

 他に生きる道があるなら、そちらを選んだ方がいいに決まっている。

 じゃあお前はどうなんだ、と言われたら何も言えないが、俺にしろ他の冒険者にしろ、どこかネジが外れた部分があるからこそ冒険者をしている。

 それは雹菜でも同じだった。

 俺の質問にミリアは、


「大きめの町だったら、誰か職人に徒弟として雇ってもらうとか、そういう方法はありますよ。村でも畑を家が持っていれば継げます。でも、そういうツテがなければ、自分で一旗あげるしかありません。例えば、農家の三男とか、町に住んでいても片親しかいないとか、そういう場合は特に」


「……そうか」


 安易に同情すべきでもないのだろうな、とは思うがやはり厳しいな。

 地球でならば……と思ってしまうからだ。

 でも、考えてみれば、地球でだって事情は大して変わらないのかもしれない。

 親ガチャとか言われる時代だ。

 実際それが全てだとまでは言わないものの、ある程度は正しい。

 親が資産家だったら塾にも通えるし、中学高校大学と進んでいくにも授業料の高い私立も何も考えずに選べるとか。

 最悪、一切働かなくても親の資産だけで生きていけるなんてことだって少なくないだろう。

 どんな場所だって、どんな世界だって、そういう運の部分というのはなくなることはなく、恵まれなかったものは自分の命ひとつを賭けて何かを成すしかないのだ。

 そういう意味だと俺は比較的恵まれていたと言えるが……それでも冒険者になるのは頭のおかしいやつだな。

 

「……よし、お前ら! 講習を受ける予定のやつはこっちに来い!」


 俺たちが待っていると、前の方に男が現れてそう大きな声で言った。

 身につけているものは……職員のそれではなく、武具であった。

 冒険者ギルドの職員、という感じよりも、冒険者そのものといった風体である。

 そんな彼にゾロゾロと着いていくと、会議室のようなところにたどり着いた。


「とりあえず座れ」

 

 そう言われてみんな適度な距離感を保ちつつ着席する。

 俺とミリアみたいに隣同士で座っている人間もいるが、そういう奴らはそもそも知り合いである場合だけだろう。

 お互いに警戒しあっているというか、まぁこの世界の治安だと武器の間合いにそうそう入ろうという気にはならないからこその距離の取り方かもしれなかった。


「じゃあ、まずは自己紹介といこうか」


 会議室の最前、壇上でそう言った男は、おそらくは壮年と思しき年齢層で、親しみやすい雰囲気を発していた。

 ただし、立ち姿に隙は見られず、あの空気感はわざとというか、意識してそうしているのだろうなというのが察せられる。

 

「俺の名はアース・タイム、四つ星の冒険者だ。まぁ知ってる奴は知ってると思うが、今日の講習を担当する。よろしく頼む」


 その名前を聞いた講習生たちの反応は、なんだか嬉しげな感じだった。

 俺は気になって、


「……有名な人か?」


 とミリアに尋ねる。

 すると彼女は頷いて、


「この街では三つ星の冒険者が最高位なんですけど、四つ星も五人しかいなくて……その中の一人が、アースさんなんですよ」


「へぇ……でも五人もいるんだろ? だったら別に……」


 珍しくもないんじゃないか、同じ街に住んでるなら。

 そう思ったが、ミリアは、


「講習を四つ星の人が担当することが滅多にないので……。普通なら高くて五つ星ですよ。大抵は六つ星の人がやります。それでも十分ベテランなんですけど……」

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