第234話 譲渡

「こ、これがコカトリスの毒の解毒薬……? しかし中級解毒薬じゃないと効かないと聞いたが……」


 エリザがそう言ったが、それは間違いだ。

 というか、地球でもそういう時期は確かにあったのだが、いわゆる下級、中級、上級と名のつく解毒薬は、総合的にどの毒にもある程度聞く解毒薬になる。

 地球では迷宮でそれらがドロップし、のちに薬師たちがスキルを活用して作り出せるようになった。

 今でもそれらは有用だが、大体の毒に効くという効果のため、必要な素材が多かったり製作するのに高い技術が必要だったりするという難点があった。

 そのため、もっと効果を絞って、代わりにコストを下げたり製作技術が低い人間でも作れるように出来ないか、という研究がなされ、結果として個別的な毒に対する解毒薬がいくつか出来たのだ。

 この場合の個別的な毒、というのはそもそも地球にあった毒ではなく、コカトリスに代表される、魔物の持つ毒だな。

 これらは特殊な毒で、普通の薬じゃまず治せない。

 冒険者の持つスキルか、それによって作られた薬でなければ。

 そして俺はそんな薬を、いくつか持っているのだ。

 持ってる理由は簡単で、雹菜がギルドで買い込んでギルドメンバーに支給しているからだな。

 安いから在庫も大量にある。

 消費期限は魔力を使っているから、非常に長い。

 数年はあるものばかりだ。

 だから問題なく譲り渡すことができるのだった。


「……その辺の事情は俺にはなんとも言えないけど、間違いなく効くぞ、それ。騙されたと思って使ってみるといい。量は結構あるから、それの三分の一くらい飲めば問題なく効くからな。それ自体が毒だとか心配なら、俺が飲んで見せてもいいけど」


「いや……うーん、それなら、私がリリアにこれを飲ませるときに、私が先に飲んでもいいか? それなら安心して飲んでもらえると思うんだ」


「構わないけど、怖くないのか? 俺が毒を渡した可能性は拭えないぞ」


「あくまでも可能性の話だろう? そもそもそんなもの渡したところでハジメにどんな得があるというのだ」


「当然、何もないけど」


「ならいいだろう。罷り間違っても、私が死ぬだけさ」


「覚悟決まってるな……」


「では、遠慮なく明日、これを届けに行こう。二人は明日は……」


「冒険者ギルドで講習があるの!」


 エリザの質問にミリアが答えた。


「あぁ、結局受けるのか。私が教えてもよかったが……まぁ、明日は無理そうだし、ちょうど良さそうだな」


「そういうこと」


「ちなみに、どんな内容なのかエリザは知ってるのか?」


「まぁな。基本的な依頼の種類などについての座学と、迷宮に潜って立ち回りなどを少し教えてくれるくらいかな……それでも有用な情報は結構あるから、行って損はないはずだ」


「なるほど。じゃあ、気楽に挑んでもいいかな」


「ハジメの腕なら問題ないだろう。ミリアは……気を張った方がいいぞ」


「やっぱりそうよね……でもハジメさんの近くにいれば……」


「俺はそれでもいいけど、不意打ちとかはありうるだろ。迷宮にいるなら。自分で自分の身を守れるくらいには警戒して挑んだ方がいいと思う」


「楽な道はないんですね……」


「そりゃなんだってそうさ。じゃあ、エリザと依頼を受けられる日はまだ先か」


「そういうことだな。と言っても私の用事も明日で終わりだ。明後日以降なら一緒にいられるさ。迷宮でも潜ろう」


「分かった」


 ******


 次の日、約束の時間に冒険者ギルドに行くと、十人ほどの冒険者が既に集まっていた。

 みんなかなり若い。

 俺が年嵩に感じてしまうくらいだ。

 つまり十五、六、と思しき幼い顔立ちの人々が多いのだ。

 この世界はやっぱり、地球と違って厳しいなぁと思わざるを得ない。

 流石にその年齢で魔物と戦え、とは地球ではあまり言わないからだ。

 いや、地球というより日本では、か。

 他の国だともっと小さな頃から無理やり戦わせているような国はそれなりにある。

 日本はいまだに、平和ボケと言われても仕方がないくらいに、子供を守っているのだった。

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