第233話 解決方法

「後妻か……なんだかわかりやすい話だな。息子を正式な跡取りにしたいから、姉の方を殺そうとって話か?」


 エリザに尋ねると、彼女は苦々しい表情をして、答える。


「大きな声では言えんがな……」


「それをエヴァルーク伯爵は気づいていないのか?」


「リリアに毒を入れるまではな」


「ってことは……」


「そう、今は気づいておられる。だからクラル様の母上……カロリーヌ様と言うんだが、彼女はもうリリア様に近づくことも出来なくなったよ」


「それなら一応一安心か……」


「そうだな。ただ、今すぐにカロリーヌ様を糾弾するのは難しい」


 これにミリアが、


「どうして? そこまで分かってるなら早く糾弾してしまった方が……」


 と言ったが、エリザは首を横に振る。


「いいや。リリアの命が危ういうちは無理だ。なぜなら、縁起でもない話だが、リリアが死亡した場合、エヴァルーク伯爵の跡を継ぐのはクラル様になるわけだが、その時に義理の母親が義理の娘を殺して息子の地位を奪い取った、なんて話になってると、支持されないからな」


「あぁ、そういう……」


「ってことは、リリアが元気になれば……」


「すぐにカロリーヌ様はどこか田舎にでも送られて、そこで死ぬまで過ごすことになるだろうな。表向き処罰出来ないことは変わらないが、なぜそうなったのかを領民に気取られずに話を終わらせることができる。カロリーヌ様が騒げば別だが、それをすれば命すら危ういことくらいは分かるだろうから、そうはならない、とさ」


「……その言い方だと、エリザ、それ誰かからの受け売りでしょ?」


 ミリアが鋭くそう尋ねると、エリザは頷いて、


「バレてしまったか? そう、リリアが言っていたことそのままだよ。あの子は賢いし、周囲の状況もよく分かっている……コカトリスの毒の入った食事を口にしてしまったことすら、自らの失態だったと悔しがっていたからな。料理人にカロリーヌ様の手が回っていたことまでは把握できていなかったと」


「……病床でそれはなんだか凄い子なんだな……」


 俺がそう言うと、エリザは笑って、


「あぁ。あの子が領主になったら、このエヴァルーク領もさらに発展するのだろうと私は期待している。いずれ騎士団にも入らないかと言われてるから、そういう下心もあるんだけどな」


「えっ、それって凄いじゃない」


 ミリアが言った。


「冒険者から騎士団に誘われることなんてあるのか?」


 俺が尋ねると、エリザは言う。


「たまにな。だが私くらいの実力だとそうそうないことだ。私の場合、女で、リリアの側に色々な意味で置きやすいと言っていたよ」


「なるほど……でもそれでいいのか?」


「実力を評価されての勧誘でないのにって? 構わんさ。実力にも色々ある。女であることがその中に入っていても私は気にしない。そもそも、冒険者はずっと出来る商売ではないからな……騎士に取り立ててもらって、それなりの年数を勤め上げれば、年金や、場合によっては小さな領地をもらって安泰という未来がありうる」


「現実的だな……でも気持ちは分かる。まぁ、それもこれもリリア様が治らないと話にならないと……」


「そこなのだ。ただ、コカトリスの毒は中級解毒薬以上でないと治せん。あれは王都の錬金術師か高位魔法薬師にでも頼まないと手に入らん。だからどうしたものかと……」


「えっ、そうなのか? あぁ……だからそんな深刻そうだったのか。俺はてっきり、毒が変異したのかと思ってたが……」


 魔物の毒は、稀ではあるが体内で変異し、より強力なものとなったり、通常の方法では解毒できないものとなったりすることがある。

 これは地球では最初、理屈が分からずに医師たちも頭を抱えていたが、現在ではそうなる理由ははっきりしていた。

 魔力だ。

 人間の魔力と、毒を持つ魔物の魔力が体内で混じり合うことによってそういうことが起こってしまうのだ。

 そのため、毒にかかって、すぐに解毒できない場合は可能な限り魔力は使わない方がいいと今はされている。

 リリアの場合もそのような状況に陥っているから、解毒が出来ないのだと思っていたが、そうではないのならどうにでも出来る。


「ハジメ、一体どういうことだ?」


「いや、コカトリスの解毒薬、持ってるからさ。あげるよ。中級解毒薬は切らしてるんだけど」


「は?」

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