第232話 宿へ

「……それで結局、ミリアの武具はタダでもらったって? ガランドール殿がそこまで気前よくしてくれるなんて、よっぽどヴェストラ山の様子が気になるのだな……」


 色々と寄り道を終え、日も落ちてきたので宿に戻ると、エリザも既に戻っていたのでギルドや街での話を彼女にする。

 ギルドでのことはやはりエリザも首を傾げていて、ゴズラグは元々人が良いというのは周知の事実なのだと理解する。

 また、鍛冶屋はエリザ紹介だったので、そこであったことを話すと彼女も力になってやりたいと言った。

 ちなみにあの後、ガランドールにミリアの武具を買いに来たことを話すと、ヴェストラ山を見に行くならとタダで提供してくれたのだ。

 完全な善意というより、ここまでしたんだから最低限、ある程度見に行ってくれよという圧力に感じないでもない。

 もらった武具も、ミリアの能力に見合ったもので、まだまだそこまで高価なものでもないしな。

 それでも武具というのは安くはないものなので、気前がいいのは間違いないが。


「エリザの方はどうだったんだ? 貴族に薬草を持っていくって……」


「あぁ、それなのだが大分喜ばれたよ。といっても、薬草だけでは完治は難しいようだったが……」


「そもそも、その貴族って何の病気なんだ? いや、言えない話ならいいんだけど」


「本人が特に隠していないから言うのは構わない。と言うか、完治のために中級解毒薬を探しているから、出来るだけ多くの冒険者に話をしてくれないかと言われてるんだ」


「解毒薬ってことは……何か毒に侵されているのか」


「あぁ、コカトリスの毒にな」


 コカトリス。

 ニワトリとヘビを合わせたキメラのような魔物である。 

 強力な毒を帯びていることで知られ、倒すためには耐毒装備を持っていることが推奨される。

 地球では、の話だが。

 上位種であるブラックコカトリスも確認されていて、こちらに関してはB級未満は目撃した瞬間に逃走しろとまで言われる化け物だ。

 

「どうしてそんな魔物の毒に……もしかして、倒しに行ったのか?」


 俺の中の貴族、のイメージとして、自分の力を示すために止められもそんなことをしそうだな、とかいうものがあったのでそう尋ねたのだ。

 しかし、エリザは首を横に振って、


「そうではない。そのような貴族もいるが……リリアは、食事にコカトリスの毒を混ぜられ、暗殺されかけたのだ。その場に下級解毒薬があったのでなんとか一命は取り留めたが……体にどうしても毒が残ってな。今では出歩くことすら難しい」


「そんなことが……何か恨まれることでもあったのか?」


「……本人はとても素直で優しい娘だ。田舎娘の私にすらよくしてくれる。だが、領主一族の娘でな……」


「ってことは……」


「あぁ、エヴァルーク伯爵の実の娘だ。本来なら、呼び捨てなどありえんのだが、私には友人になってほしいと許してくださってな。二人きりの時にだけ、そのようにお呼びしている」


「そうなのか……領主一族で、暗殺っていうのは、やっぱり相続問題か?」


 俺の勘がいいというより、この辺りはありがちだからそうかなと思っただけだ。

 他に理由がなかなか浮かばない。

 実際、エリザは頷いて、


「その通りだ。伯爵には二人の子供がいてな。リリアと、そして弟君のクラル様だ」


「じゃあそのクラル様が……?」


 ミリアが恐る恐る尋ねるが、意外にもエリザは首を横に振る。


「いや、クラル様も家族思いの優しい方だよ。問題は、クラル様の母上だ。リリアとクラル様は母上が別でな。リリアの母上は既に亡くなっていて、クラル様の母上は後妻だ」

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