第231話 見物に
ともかく、特級鍛治師、というのが何か物凄い腕のいい職人であるというのは理解した。
地球でいうところの第一人者とかトップランナーとかそんなレベルなのだろうなと。
「でもその割に、なんでこれくらいの街で鍛治師を……いや、別に領都が田舎とは思ってはいないんですけど……」
嘘だ。
地球の巨大都市を知っている俺からすれば、領都は正直田舎と言ってもいい規模だ。
47都道府県の中でも、人気度ランキングが下位になってしまうようなところの地方都市くらいに見える。
そう言ったら地球でも死ぬほど文句を言われそうだが……。
まぁでも、現代の運搬技術とか農業技術とかがない割に、これくらい発展してれば大都市って認識なのかな?
その辺りの感覚は掴めなかったが、次の瞬間のガランドールの反応で大体俺の指摘が合っていることを理解する。
「あー、まぁな。正直言えば、王都の方がずっと都会だし、工業都市に行けば多くの鍛治師が軒を連ねてるから、商売としてもやりやすいのは事実だよ」
「だったら……」
なんでわざわざここで。
そう思った俺に、ガランドールは言う。
「さっき言った、ヴェストラ山だよ。あそこから、もしかしたら手に入るかもしれない素材、それを俺は……」
「そんな特別なものがあるんですか?」
「どうだろうな。ないかもしれねぇ。ただ、今回、地這竜が出たんだ。あいつは強力な竜気を感じるとそれに群がるように現れる。だからおそらくは……ま、だからと言って俺にどうにか出来るわけでもなさそうなんだがな。せめてこの街に三つ星くらいの冒険者がいりゃ、大枚叩いて依頼を出したんだろうが……」
「依頼って、どんなですか?」
「そりゃもちろん、古竜鉄の採取だよ。あのヴェストラ山は、かつて古竜が住んでいたって言われてる。古い時代の話だがな……その時に形成された古竜鉄は、今でもヴェストラ山の坑道奥深くに眠っているとも。あれは最高の素材だ。それこそ、神鉄に匹敵するレベルのな。昔、教会で祀られてる神剣を見たことがあるが、あれほどの剣を一度、俺は俺の手で作ってみたい。だからな……」
「古竜鉄ですか……初めて聞きましたけど、本当にあるなら相当ですね」
ミリアがそう言った。
「知ってるのか?」
「絵本で読んだことがありますよ。古竜鉄で作られた竜剣は、ありとあらゆるものを切り裂くって。同時に強大すぎる力は持ち主を破滅に導くとも」
「呪いの魔剣じゃないか……」
「まぁ嘘かほんとかって感じの武器ですからね……勇者の剣とかそんなのと同じです」
「勇者の剣なんてのもあるのか」
「そいつは神剣の方に入るもんだな。遥か昔に勇者が使っていた神剣。かつての魔王を滅ぼした時に失われて久しいらしい。ただ、破壊されというわけじゃなく、世界のどこかで次の勇者を待っているのだとさ。今も勇者を名乗ってる奴らはそれなりにいるが、そのいずれもその神剣を手に入れられてはいないんだけどよ」
「……勇者、いっぱいいるのか……」
大安売りするような存在じゃないと、RPGゲームが好きだった俺なんかは思ってしまうが、その辺の感覚はこの世界の人には伝わらないだろう。
流すことにする。
それから、ふと思いついたように言った。
「あの、ガランドールさん」
「あぁ? 別にさんはいらねぇぞ、それから敬語も」
「じゃあお言葉に甘えるけど……それは置いておいて。さっきの……ヴェストラ山って、近いのか?」
「まぁ……馬車に乗れば一日で着くくらいの距離だな。ってお前まさか……」
「いや、あんまり期待しないんで欲しいんだけど、ちょっと見に行ってみたいなと。奥まで行けるとは思わないが、魔鉄ってやつを採取してくれば、魔剣を打ってくれるんだろ?」
「構わないぞ。ついでに地這竜の様子もみてきてくれたら、まぁ、工賃もタダにしてやってもいい」
「えっ、マジか。そりゃお得だな……」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ! 地這竜って、コボルト騎士とは格が違う魔物ですよ!? めっちゃでかいんですから!」
ミリアの言葉に俺は、
「見たことあるのか?」
と尋ねる。
するとミリアは、
「剥製が王都の博物館にあるので……馬車くらいあるんですよ……」
「馬車か……まぁそれくらいならなんとかなるんじゃないかな」
《転職の塔》の次のエリアへの扉を守るレッサードラゴン、あれは馬車どころでは済まない巨体だった。
あそこまでではないなら、ちょっと見て帰ってくるくらいは出来るだろう。
「私は行きませんよ……?」
「流石にそこまで求めてないって。しかし一人で行くとなると魔鉄とかわかるかな……」
俺はこの世界では世間知らずだ。
悩ましい問題だ。
まぁなんとかなるか……?
鉄鉱石を探せばいいんだろう。
ガランドールに見本とか見せて貰えば……。
そんなことを考えていると、ミリアが、
「……はぁ。わかりました。私も行きます。頼りなさすぎて……でも、地這竜が出てきたら私はすぐに逃げますからね……?」
「お、マジか。助かる。ありがとう」
「はい……でもハジメさんは強いから、意外に大丈夫なのかな……?」
最後は独り言のように呟いたミリアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます