第230話 特級
《竜剣堂》の主人であるドワーフのガランドール。
彼の言い方に、俺は少し違和感を感じて尋ねる。
「……素材さえあれば?」
まぁ、普通に考えて、ただの言葉通りのセリフかもしれないと思ったが。
けれどガランドールが次の瞬間言った言葉は、意外なものだった。
「あぁ、普通の鉄ならいくらでも手に入るんだがな……魔鉄系は今、なかなかないんだ。もし魔剣や魔鎧、魔盾がほしいってんなら少しばかり時間をもらわないとならねぇ。具体的には、ヴェストラ山の坑道から地這竜がいなくなるその時までな。まぁ、それか、遠くから取り寄せてもいいんだが、そうすると根が張っちまうからよ」
「魔武具ですか……」
それは、人間が迷宮から得られた迷宮武具を模倣して作り出した、武具の魔導具の総称である。
少なくとも地球ではそうだった。
しかしその効力は迷宮武具と比べるとどうしても一段も二段も落ちてしまうもので、名工と言われる者が作り出す品は目玉が飛び出るような高価格で売買されている。
だから、通常の冒険者が魔法のかかった強力な武具が欲しいとなったら、迷宮に潜って自分で取ってくるのが最も現実的な方法になる。
なかなか狙ったものは出にくいので大変だが、高い性能の武具が手に入ることも運が良ければある。
俺は運がよかった方だな。
ただ、迷宮武具の方が全てにおいて優れているか、と言われるとそうでもなく、人間がその手で人工的に作る魔武具は、狙った性能が出しやすかったり、使いやさすさの面でかなり便利だ。
もしも壊れたとしても、同じものを頼めばまた作ってもらえるという点も良く、高位冒険者はむしろそちらを好むタイプも少なくない。
こっちの世界だとこの辺りの事情がどうなのかは分からないが、やはり一本くらい欲しい気はするな。
「おう、俺の魔武具はそこそこいい品だぞ。俺はランズ鉱国発行の特級鍛治師の資格も持っているからな」
「えぇ、それはすごいですね……鍛治ギルドでも、滅多にいないって聞きますけど!」
ミリアがそう言った。
特級鍛治師の凄さが俺にはよくわからず、驚き遅れる。
そんな俺の気持ちを顔から察したのか、ガランドールは、
「……お前、知らんのか。特級鍛治師……」
と、少し残念そうな表情で見つめたので、俺は頷く。
「誠に申し訳ないのですが……」
地球にはそんなものなかったからな。
まぁ、色々な資格は存在しているし、鍛治関係でも色々あるんだろうが、その辺については専門家でないのでそこまで詳しくない。
どの鍛治師が腕がいいのかなんて、ウェブで検索してしまうしな、向こうだと……。
で、レビューの良し悪しで確認して満足してしまう。
だいぶ良くない現代人のサガであった。
こっちだとそんなものないだろうし、口コミとか国からのお墨付きとかがそう言うものの代わりになるわけだ。
それを俺は知らないと……。
なんか世間知らずになった感じがすごい。
いや、間違いなく世間知らずなんだけどな、この世界だと俺は。
「……まぁ、知らないなら仕方ない。自分で言うのもなんだが、特級鍛治師はドワーフの国家、ランズ鉱国がこれと認めた鍛治師だけに与える称号だよ。これがあると、どこの国でもそれなりに受け入れてくれるんで便利なんだ。それに素材の購入なんかもかなり融通が利くしな。鍛治師としては持ってるに越したことはない」
「……それは確かに正しいとは思うんですけど、なんか便利だからという部分に説明が偏ってませんか? ハジメさん。特級鍛治師は年に一人も認定されればいいくらいの非常に取得の難しい称号です。これを持っていればどんな国のどんな街であろうと問答無用で工房を開けます。それくらい優遇して扱うべき鍛治師だという照明で、超一流の証なんですよ」
ミリアがそう言った。
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