第229話 鍛冶屋

「……鍛冶屋《竜剣堂》……と、ここがエリザに紹介されたところで合ってるか?」


 俺がミリアにそう尋ねると、彼女は頷いて答える。


「はい! ここですね」


 目の前には、無骨な作りの建物が見えた。

 煙突からは煙が上がっていて、店舗だけでなく鍛冶場もここにあるのだろうということが分かる。

 装飾のない建物であるのは、堅牢性重視ということかな。

 鍛冶屋の中には、見た目だけにこだわって実用性皆無の武具を作るところもあるという。

 主に貴族向けで、腕が悪いとかというわけではないのだが、流石に冒険者がそういうところで買うのは問題だからとエリザに紹介してもらったのだった。

 まぁ、紹介と言っても紹介状を渡されたとかそういうわけではないのだけど。

 大体、鍛冶屋というのは偏屈そうなイメージが先行しているので、なんか不安だが……。


「とりあえず、入るか」


「そうですね……ごめんくださーい!」


 中に入ると、外から見たよりも意外に広く、また、商品と思しき武具が整然と棚に陳列されているのが見えた。

 奥まった位置にカウンターがあり、そこで店員とやり取りするのだろうが、そこに人の姿は見えない。

 

「誰かいませんかー?」


 ミリアがそう呼び続けているのを後目に、俺は武具の類を観察させてもらうことにした。

 そのうち店員も来るだろうし。

 いずれの武具もかなり質が良さそうに感じられた

 装飾は最低限だが、それはやはり実用性重視であるがための作りであることが見ればわかる。

 それでいて、美しさも感じられ、この世界の鍛治師の仕事というものに尊敬の念を覚える。

 地球でも一流どころの鍛治師、というのはいるのだが、そういうのが作った武具は目ん玉が飛び出るほど高いのが普通で、俺くらいのランクの冒険者はまず買えないからな。

 しかしこの世界なら……。 

 剣はともかく、防具は購入してもいいかもしれない。

 予備として剣も買ってしまおうかな……。

 そんなことを考えていると、


「……お、客か?」


 という声が、カウンターのさらに奥から聞こえてきた。

 暖簾のようなものを潜って現れたその人物に、俺は少し驚く。

 なぜと言って……。


「……ドワーフ?」


 そう、どう見てもそうとしか言えない存在が、そこにはいたからだ。

 大体、百二三十センチ程度と思しき低い身長だが、その横幅は普通の人間を遥かに上回っている。

 腕の太さなど、ミリアの腰を二つ分はありそうだし、盛り上がる筋肉量はその腕力の凄まじさを語っているようだ。

 長い髭を三つ編みにしていて、また眼光は鋭くこちらを見つめている。

 年齢は……五十前後に見えるが、実際にその通りの年齢なのかどうかはわからない。

 いわゆる、亜人か……地球にもいるのではないか、と言われているが、いたらこんな感じなのだろうか。

 そんなことを考えつつ、ジロジロ見ている俺に気づいたのか、


「なんだ、もしかしてそっちの兄ちゃんはドワーフを初めて見たのか?」


 と聞いてくる。


「あぁ……実はそうなんです」


 ここは嘘をつく必要はないだろう。

 地球には実際にいなかったし。


「それは珍しいな。ドワーフなんてどこにでもいるが……まぁ街じゃないと数は少ねぇか。村にいつくと腕を振るえる鍛治仕事も少ないしな」


「そういうものですか?」


「おう。包丁や鍋とかの修理とかはあるけどな。そんなに頻繁にあるもんじゃないし、暇だろ。それより冒険者の多いとこにいた方が、稼げる」


「なるほど……」


 それにしても、だいぶとっつきやすそうというか、気難しいドワーフ、というわけではなさそうで俺は安心する。

 これがこのドワーフだけなのか、それとも種族自体、人間と大して変わらない程度に穏やかな性格をしているのかはわからないが。

 ドワーフはいう。


「で、仕事か? 俺は《竜剣堂》の店主の、ガランドールというもんだ。武器も防具も、大抵のもんはつくれるぜ。素材さえあればな」

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