第228話 用事

「あれっ……」


 だが、その魔力の乱れは少しずつゴズラグの体内から引いていく。

 そのまま消えるか……?

 そう思ったのだが、最終的にはほんの少しだけ、頭の部分に靄がかかったように残った。

 他の部分は完全に正常に戻ってはいるものの……これはどういうことだろうか?

 わからない。


「……まぁ、ともあれ、ゴズラグさんのことは私たちに任せて、今日のところは帰っていただいても大丈夫ですよ。謝罪は後日、本人に行かせますから」


 職員がそう言った。


「大丈夫なのか? また変に絡まれたりするのは勘弁なんだけど……」


「それについては問題ないと思います。言い訳に聞こえることは重々承知なのですが、本当にゴズラグさんは普段、とても面倒見の良い冒険者なんですよ。またいきなり問題を起こすとは考えにくいです」


「もし起こしたら?」


「厳重注意……では済まないですね。何らかの処分が降るでしょう。場合のよっては冒険者資格の剥奪まであり得ます」


「そうなったら再登録とか出来ないのか?」


「一年経てば出来るのですが、その場合は最低ランクの十星からになります。一度、五つ星まで上がった人間が、初めからコツコツと駆け出しと同じように努力出来るかは微妙なところです。大半の人は、耐えきれなくなって身を落としてしまったりしますね」


「身を落とすって……盗賊とかか?」


「他には、後ろ暗い商売とか、用心棒とかですかね。お金はいいんでしょうけど、そうなってしまうと一生お尋ね者です」


「あー……」


 いくらなんでもそこまでなってほしい、とまでは思ってはいない。

 まぁ、いきなり殴りかかられたんだからそれなりに腹が立っているが、それ以上にゴズラグのあの感じ、については気になっているものもある。

 もしも何か理由があるのなら……その辺を知ってから、しっかりと判断したいところだ。

 だから俺は言った。


「今まではちゃんとしてたんだよな? だったら今回のことはとりあえず俺からは極端な処分とかは求めないよ。あとで宿に来てくれれば」


「本当ですか? それは寛大な言葉でありがたいです。ゴズラグさんにもしっかり伝えておきますね。ええと、宿の場所は……」


 そして、俺が宿の名前を教えると、そのままミリアと一緒に冒険者ギルドを出たのだった。

 


 ******


「いやはや、とんでもない目に遭いましたね」


 ミリアが歩きながら言う。


「まぁなぁ……お約束とは言え、本当にこんなことがあるとは。ある意味感慨深いところはあるけど」


「お約束……?」


 俺の言葉に首を傾げるミリア。

 冒険者ギルドで絡まれる、という実績について、地球では小説でありがちな展開であることを、当然ミリアは知るわけがない。

 お約束、という言葉自体の意味は、《ステータスプレート》の力によって伝わっているのだろうが、どういう意味でそれを言っているかは分からないだろう。

 だから俺は、


「いや、こっちの話だ。それより、今日の用事は他には……」


「あぁ、そうですね。鍛冶屋と魔導具店に行くんでした」


 鍛冶屋の方は、俺ではなくミリアが自分の武具を揃えたいためだ。

 俺の方は既に自前の武具がある。

 まぁ、もしもこっちの世界の武具に良さげなものがあったとしたら買うのもやぶさかではない。

 ただ、俺の持ってる剣は結構な品なので、おそらくは必要ないと思う。

 エリザも、俺の剣を見て、相当な逸品と言っていたからな。

 仮にこれより優れた品があってもそうそう買えなさそうな気がする。

 ちなみに、魔導具店については俺が行きたいと言ったのだ。


「《灯火》の魔導具以外にも、色々と並んでるんだろ? それに、魔導具製作用の工具とかもあるって……」


「そうですよ。でも珍しいですね、職人の技術を身につけたいなんて。冒険者と両立するのは大変ですよ?」


「かもしれないけどな。ま、無理そうだったら諦めるさ……」


「それがいいです。あっ、教科書も必要でしょうから、本屋も追加ですね!」


 そんなことを話しつつ、俺たちは大通りを進んでいく。

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