第369話 志賀大和の気持ち 1

 俺、志賀大和しがやまとは、将来を嘱望された冒険者見習いだ。

 C級冒険者である両親のもとに生まれ、親族一同、皆、冒険者の一族。

 中にはA級もいた……俺の叔父の志賀碧人しがあおとだ。

 父さんの弟で、よく時間があるとうちに来て、俺に冒険者の何たるかを教えてくれた人。

 よく遊んでくれたし、いい叔父だったと思う。

 すごく強くて……いつか魔境すら取り返してくれるんじゃないか。

 それくらいにすごい人だった。

 けれど、そんなにすごい人でも、この間の、《転職の塔》攻略戦で亡くなってしまった。

 叔父さんがヘマをした、とかじゃなくて、そもそも未踏破の迷宮、それも深部だ。

 どうしようもないことだったらしい。

 叔父さんは、生きて帰ってこようと思えば帰れたらしいけど、殿を自ら引き受けて……それで。

 あの日、俺は生まれてきてから一番泣いたように思う。

 冒険者の道は厳しく、いつでも命は天秤にかけられていて、少しの運の悪さで、どれだけ強い人でも死んでしまう。

 そんな場所なのだと。


 だから、俺は今まで以上に本気で、冒険者を目指すことにした。

 誰よりも努力し、誰よりも強くなる。

 そのためには何だってする。

 そう思って、高校で死ぬ気で頑張っているのに……。

 たった一人、勝てない奴がいる。


 同じクラスの、天沢佳織あまさわかおりである。

 いつも飄々として、何を考えているのかよく分からない、おかしな雰囲気の女だ。

 座学系に関しては正直、パッとしないというか、確かに成績はいいにしても一番というわけではないのだが、実技系については他の誰の追随も許さないレベルにある。

 俺が今まともに戦いを挑んでも……おそらくは、一分も持たないでやられる。

 それくらいのやつだ。

 だからといって、俺は奴の存在から逃げるわけにはいかなかった。

 あいつにすら勝てないようなら、叔父さんを超えることなどできないから。

 叔父さんを越えられないなら、叔父さんの仇を打つことすらもできないからだ。

 まして、佳織はまだ、学生に過ぎない。

 冒険者の本番は、高校卒業後に始まる。

 在学中のインターンシップ活動も勿論あるが、基本的には就職してからが正念場なのだ。

 それなのに、学生にすら勝てないようなら……俺は。

 だから、実技系の科目ではことあるごとに勝負を挑んでいるのだが……まともに勝てたことは一度もなかった。

 勝ったことは、ある。

 だが、そのどれもが、勝ちを譲られたに過ぎないことは察していた。

 あいつは俺など視界に入れようともせず、勝負などどうでもいいと、そんな目をしている。

 それが余計に腹立たしいのかもしれない。

 俺があいつに喧嘩を売るように勝負を求めるようになってしまったのは、そんなところにも理由があるような気がする。

 卒業までには……あいつに完膚なきにまで負けを認めさせて、それで。

 それで……どうしようっていうのかは正直分からないけど、そこから、俺は先に進めるんじゃないかと、漠然とそんなことを思っているのだった。


 そんな日々の中、担任のカナ先から実技講習のために来てくれるギルドとそのメンバーが伝達された。

 高校の実技講習に来てくれるギルドというのはそれほど多くなく、非常にありがたい存在だ。

 これは別に、面倒くさいから、というわけではなくて、単純にそこまでの余裕を持っているギルドというのが少数だからだ。

 それでも来てくれる、というのは、何らかのボランティア精神……地域のために、とか、後輩のために、とか、そういう理由であることが大半だ。

 だから、どんな冒険者が来てくれるにしろ、後進の育成に力を注いでくれる、尊敬できる冒険者……俺はそう思っているのだが、ふと、発表された名前に、天沢、という聞き覚えのある苗字があることに俺は気づいた。

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