第205話 素材拾い

「……今日のところはこんなもんかね」


 独り言を呟きながら、俺は作業を終える。

 作業とは、ここまで倒したゴブリン騎士たちの魔石とドロップ品の収拾である。

 ここ、《ゴブリンの砦》では際限なくゴブリン騎士たちが湧出し、冒険者に襲いかかってくる。

 だから俺は今までずっとそいつらを相手に戦い続けてきた。

 およそ五時間ほどだろうか。

 その中で、自分の身体能力や疑似スキルを試し、どれだけのことが出来るか確認し続けた。

 結果として、やはり今の俺ならまぁまぁ戦える、という確信を得られた。

 だからと言って慢心するつもりもなく、ここからも十分に注意して階層を進めていくつもりではあるが、流石に第一階層についてはこれ以上ここに留まる必要はないだろう。

 得られる魔石、ドロップ品もしょぼいしな。

 ちなみに、ゴブリン騎士を倒しまくり、その魔力を吸収し続けた結果はこれだ。


 名前:天沢 創

 年齢:18

 称号:《スキルゼロ》《冒険者見習い》《地球最初のオリジン》《総理(日本)の救出者》《アイドルのマネージャー》……

 職業:魔術師

 腕力:114(+1)

 魔力:188(+1)

 耐久力:172

 敏捷:143

 器用:3412(+7)

 精神力:3879(+9)

 保有スキル:無し

 保有アーツ:《天沢流魔術》《天沢流剣術》


 ……正直、いまいち、と言わざるを得ない。

 腕力と魔力が少し上がっただけ。

 倒した数を考えると、もっと上がっていてもいいのにだ。

 俺は通常の冒険者と比べて、5〜10倍程度の魔力を吸収することが出来るのにこれである。

 ステータスの上がりにくさというものがわかる。

 それでも、毎日続ければ数ヶ月で相当な数値になることは明らかで、それを考えれば悪くはないのかもしれないが……でもこの感じだと、どこかのタイミングで全く上がらなくなりそうだな。

 実際、腕力と魔力以外は1すら上昇しない。

 腕力と魔力が1上がったのも、これが最後かたまたまだった可能性まである。

 ここでステータスを上げる、というのはもはや俺には厳しいのだろう。

 となると、次の階層へと歩を進めるしかないのだが……。


「それは明日かな……」


 そう思った。

 というのも、ここで得られたドロップ品と魔石は収納袋に入れているわけだが、俺の持っているものはそれほど容量が大きくなく、限界に達するのも早い。

 一応、まだ入るのだが、下の階層に行って、良い品があるのに入らない、なんてことになるのは避けたい。

 だから一旦、中身を全て空にしてから……もちろん回復薬などの必要な品は空にはしないが……また明日挑みたい、と思っている。

 悠長なことを、と思うかもしれないが、これでも今までの俺と比べたら相当に進歩している。

 以前なら、一人で迷宮に潜るなんてほぼ自殺だった。

 それなのに、今では少しずつでも進んでいけるのだから。

 無理を通せばガンガン先にも行けるとは思う。

 でも、そこまでの勇気は、まだ俺にはない。


「ともあれ、まずは換金だな……」


 そう呟きながら、俺は《ゴブリンの砦》を後にしたのだった。


 ******


 魔物の素材やドロップ品、宝箱から得られた品などを、冒険者はどうやった金に変えるか。

 それにはいくつか方法があるが、最もポピュラーなのは《協会》の《換金所》に引き取ってもらうことだろう。

 《協会》とは《冒険者協会》のことであり、利潤追求のためではなく、あくまでも冒険者全体の利益のために存在している組織である。

 《冒険者省》の下部組織に当たるが、ある程度独立していて、別の組織だと考えたほうがいいかもしれない。

 そんな《協会》の行っている事業の一つに、冒険者が得た素材の売買事業がある。

 これのいいところは、どこかのギルドに所属していなくても利用可能だ、ということだろう。

 あくまでも冒険者全体のため、であるから冒険者であれば誰でも利用できるのだ。

 もちろん、ランクなどが高ければそれに見合った扱いを受けられるが、どんなギルドにも所属できなかった人間であっても、迷宮に潜り、素材を得てくれば買い取ってくれる。

 金額については他の換金方法より良い場合も悪い場合もあるが、標準的な金額であるのが普通だ。

 そして、《換金所》は、多くの迷宮の近所にあり、迷宮帰りにコンビニ感覚で寄れるところが一番良い。

 俺はここで、今回得た素材を売却するつもりなのだった。

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