第204話 身体強化系

 擬似スキル《隠密》の効果を試したいのもあって、俺はそれを解かずにゴブリンの元まで走った。

 俺の予想では、いくら相手から自分の気配を隠せるスキルとは言っても、接近すればどこかのタイミングで気付かれる。

 そう思っていた。

 けれど実際には……。


「……あっけなさすぎるな……」


 地面には、首と胴体が離れたゴブリン騎士が横たわっていた。

 ゴブリン騎士は、結局俺の接近に全く気付くことなく、そのまま俺に首を刈り取られたのだった。

 間違いなく警戒状態にはあったのだが、俺の存在が目に入らなかったらしい。


「《隠密》は想像以上に使えるな……雹菜には効果なかったけど」


 擬似スキルは雹菜との訓練でも試しているものが多いが、彼女はこの《隠密》も簡単に見破った。

 そもそも彼女の目は俺と同じで魔力の動きを視認できる。

 それもあって、あまり意味がなかったのかもしれない。

 他のギルドメンバーに関しては割と戸惑っていたが、接近しても全く気付かなかったのは、最近入ったカズ、巧、それに樹だけだった。


 せっかく倒したのでゴブリン騎士の魔力を無駄にはできないと、とりあえず吸収してみるが、あまり食い出がないというか、吸った気がしない。

 《ステータスプレート》を確認してみるも、案の定、ステータスに変化はなかった。

 

「やっぱりこれくらいの魔物じゃ、もうステータスは上がらないのかね……」


 分かってはいたことだが、雑魚を大量に倒してレベルアップ、とはいかないらしい。

 それでも……。


「しばらくは、第一階層……ここで戦おう。他の擬似スキルも試しておきたいしな」


 そう思って、俺は次の獲物を探しに歩き出した。


 ******


 結果としてわかったことは……。


「……もうゼロスキルだって、落ち込む必要はなさそうだな」


 そういうことだ。

 周囲には、数十体のゴブリン騎士の死体が転がっている。

 いずれも俺が倒したもので、端の方から徐々に体が消滅していっている。

 迷宮に吸収されていっているのだ。

 魔物が迷宮に吸収されるのは、倒してから数分から十分程度。

 素材の剥ぎ取りを始めればその限りではないが、ゴブリン騎士から欲しいものはない。

 剣と革鎧が一応あるが、錆つきの剣など危なくて訓練では使えないし、革鎧も子供用サイズである。

 必要はない。

 

 ちなみに、彼らをどうやって倒したかと言えば、最近覚えた、部分強化系の擬似スキルを使ってのことだった。

 部分強化系とは、身体能力を全体的に上げられる《身体強化》系とは異なり、《腕力強化》とか《脚力強化》とか、体の一部分だけを強化するスキルだ。

 一部分しか強化できないため、《身体強化》系の下位スキルだという認識が大多数だが、実際に使ってみると派生スキルという方が近い気がした。

 《身体強化》系は確かに体全体を強化できるものの、強化率がいじりにくい。

 しかし、部分強化系は魔力の量によって強化率を上下させることが容易なのだ。

 そのため、俺にとっては非常に使いやすいスキル群なのだが……。


「そもそも魔力をかなり扱えないとこれはできない、かな……? そうだとすると、《身体強化》系の方が上位扱いなのは理解できるか……」


 一般的な冒険者は、そもそもスキルは発動したらほとんど一定の威力しか出せない。

 それを超えてコントロールが可能なのは、高位冒険者の領域になってくる。

 威力が弱くても、使い方や発動のタイミングなどを工夫してうまく扱う者もいるが、限界はあるだろう。

 しかし俺の場合、高位冒険者並みに……いや、自惚でなくそれ以上にスキルの潜在能力を引き出すことが出来る。

 これはやはり相当なアドバンテージなのだなと理解できた。

 

 そもそも、素のステータスでもゴブリン騎士くらいなら普通に倒せたのだが、この数相手に無傷で、というのは無理だったと思う。

 ここは、この第一階層でも初心者は近づいてはならない、と言われるゴブリン騎士が大量に生息する《ゴブリンの砦》と言われるエリアであり、ここを通らなくても第二階層まで行ける。

 俺はあえてここにやってきて、多対一の訓練をすることにしたのだ。


「……お、次の湧出か……もう少し試させてもらおう」


 視線を上げると、先ほどまで転がっていたゴブリン騎士たちの体は全て消えていて、代わりに光が生じ、そこからしっかりと動いているゴブリン騎士が十数体出現しようとしていた。

 少し前までの俺なら怯えて逃げていただろう数。

 しかし……今の俺なら。


「蹴散らしてやる」


 そう言えた。

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