第203話 擬似スキル

「……まぁ、とりあえずは今の実力の確認からだな」


 迷宮《騎士の巣窟》に入り、第一の目標を口に出す俺だった。

 ここのところ、迷宮に潜るときはほぼ雹菜や他のメンバーと一緒だったため、正確な自分一人の実力、というものを把握し兼ねていた。

 パーティーで潜っているとき、俺は俺の全てを出すということが難しい。

 その理由は、俺が通常のスキルを一つも持っていない、ということに起因する。

 連携が難しいのだ。

 もちろん、そんな中でも上手くやれるように、うちのギルドのメンバーは色々と考え、また気を遣ってはくれている。

 そのお陰で、ギルドメンバーの誰とパーティーを組んでもある程度、上手くやれるようにはなっているのだが、それでも不完全燃焼な部分は感じていた。

 その辺りを解消するのに、今回はいい機会だと思っている。


 《騎士の巣窟》だが、その名前の通りここは非常に剣士系の魔物が多いことで知られていた。

 しかも、そのほとんどがしっかりとした武具を身につけているのだ。

 だから、剣士の、とは言わずに騎士の、と言われる。

 そうは言っても第一階層くらいだと革の防具と粗悪な金属製の剣くらいが関の山だが、階層が進むにつれてその装備の質は上がっていくし、当然ながら身につけている魔物の格も上がっていく。

 迷宮自体の大きさは中規模、と言われていて、最深部はおよそ三十層から四十層の間ではないかと推測されている。

 当然ながら、そこまで潜ったものはまだいないわけだが。

 実のところ、世界的にみて、迷宮というのは結構、完全踏破されている。

 迷宮の最も奥に存在している、《迷宮主》という強力な魔物を滅ぼし、消滅してしまった迷宮というのがあるのだ。

 ただし、そういった迷宮は小規模なもの……深くてもおよそ二十層程度のものに限られ、最も小さいものだと三層くらいでしかない。

 これは、迷宮というのが深くなればなるほど、出現する魔物が強力になるからで、現代の人類に攻略可能な限界がとりあえずそんなものだ、ということだ。

 ちなみに、完全踏破した場合、何か報酬がありそうだが、それについては色々だな。

 強力な武具ま魔導具とか、スキルとかが定番だが、それ以外にも何かあるらしいとは言われている。

 しかしそれがなんなのかは、国家が箝口令を布いているとしか思えないくらいに、どこにも流れてこない。

 何かがある、それだけだ。

 もしかしたらA級以上になれば教えてもらえるのかもしれないが……雹菜もどうかな。

 彼女も高位冒険者で、だからこそ言えない秘密というのも結構あるだろうなと思って聞けていないことの一つだ。

 気になるが、いつか自分が上り詰めて知るというのも楽しいなとか思っている。

 

 ともあれ、今はそのために少しでも実力を上げなければ……。


「……おっ、一匹目は、ゴブリン騎士ナイトか……なんか思い出すな」


 迷宮を進んでいくと、ふと少し離れた位置をうろつく、一匹のゴブリン騎士を見つける。

 あれが俺の最初の獲物になるだろう。

 思い出したのは、以前戦った、ゴブリン暗黒騎士だ。

 見た目は似ている。

 当然だ。同じ種族なのだから。

 とはいえ、身につけている武具は粗末な革の鎧だし、持っている剣も錆びついた金属製の剣だ。

 身のこなしもお粗末で、確かに周囲を警戒してるのは理解できるが、俺の存在には気づけてはいないようだった。

 まぁ、これについては仕方のないことがあり、俺が今、《天沢流魔術》によって、擬似スキルである《隠密》を発動しているからだな。

 擬似スキル、というのは《天沢流魔術》をタップすると表示される一覧に出てくる《最下級身体強化《擬》》とかの総称だ。

 誰が決めたかって、俺が決めた。

 というか訓練の時にギルドメンバーと話し合って、いちいち、〜《擬》とかいうのも面倒臭いなということになり、じゃあ総称を擬似スキル、ということにしようとなっただけだが。

 なぜ擬似スキルかって、《ステータスプレート》に表示されてる《擬》って本来のスキルを擬似的に真似た、もしくは発動させたもの、という意味だろうということは明白だからだな。

 ま、そんなわけで俺はいまだにもちろんスキルゼロだが、擬似スキルは結構豊富に持っている。

 これを使って、迷宮を攻略していくつもりだ。

 そのための一匹目……ゴブリン騎士に向かって、俺は走り出した。

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