第202話 迷宮入り口

「……結構しっかりしてるな」


 次の日《五反田第二ダンジョン》……通称《騎士の巣窟》に降り立った俺である。

 駅からバスも出ているが、そもそもギルドビルからそれほど遠くない位置にあったので歩いてやってきた俺だった。

 迷宮の在り方は場所によって様々だが、ここは迷宮の入り口周辺に十分な構造物が作られているタイプだな。

 中には冒険者のための様々な店舗が存在していて、最奥部に迷宮へと続く広間がある。

 危険じゃないのか、と聞きたくなるが、そもそもいわゆる迷宮から魔物が溢れ出す海嘯なんてものが起こったら、この規模の迷宮であれば五反田全土が魔境に沈むくらいのことが数時間で起こるのであり、気にするだけ無駄なところがある。

 まぁ、それでも遠くにいれば逃げられるかもしれないし、こんな至近距離で店なんて、という気はするが、働いているのは一般人だけでなく、引退した冒険者とかも普通にいるので、その辺の危険は受け入れているのだった。

 そもそも、観光地価格じゃないが、普通の場所よりも商品価格が高く設定されているものも少なくなく、いい稼ぎになるのだ。

 人は迷宮が出来ようと魔物が現れようと、たくましく生きていくのだということだな……。


 しかしながら、俺はすでに迷宮に潜るために必要な物品は全て揃えてあるので、あえて高値の商品に手を出す必要はない。

 潜ってみて、どうしても必要なものがありそうだったら戻ってきて買うかもしれないが、多分大丈夫なはずだ。

 十分に下準備はした上で、ギルドの倉庫から支給品を持ってきたのだし。

 もちろん、全て無料というか、会社の経費だ。

 我がギルドは零細ギルドの割に潤沢な資金があるので、従業員福祉に余念がないのだった。

 

「……さぁ、回復薬はどうだ! 《薬師松田》特製の回復薬だ! 通常品より二割増で効くよ!」「こっちは《麻痺毒の短剣》があるぞぉ! 一階層で出現する魔物にはよく効くぜ!」


 そんな風に威勢よく叫ぶ呼び込みのおっさんたちの横を通り抜けて、俺は迷宮の入り口のある広間に向かう。

 広間に辿り着くと、やはりそこにいるのは大半がパーティーを組んでいて、突入前のミーティングをしている者の姿が目立った。

 あとは、中から出てきて疲労が溜まっているのだろう、地べたに座り込んで息を整えている者とかもいる。

 ……と、思ったら横を担架に乗せられた人が通り過ぎて行った。

 かなりの大怪我で、白衣を着た人々が色々とやっていた。

 回復薬では治り切らなかったのかもしれない。

 治癒術師の元に運んだのかな……ああはならないように気をつけようと心を引き締める。

 

 そして、俺は入る前に改めて自分の《ステータスプレート》を確認してみることにする。

 後で比較するためだな。


 名前:天沢 創

 年齢:18

 称号:《スキルゼロ》《冒険者見習い》《地球最初のオリジン》《総理(日本)の救出者》《アイドルのマネージャー》……

 職業:魔術師

 腕力:113

 魔力:187

 耐久力:172

 敏捷:143

 器用:3405

 精神力:3870

 保有スキル:無し

 保有アーツ:《天沢流魔術》《天沢流剣術》


 やっぱり、器用と精神以外の伸び率は低くなっているな、と改めて思う。

 これについては仕方がない。

 それでも少しずつ伸びているからいいのだ。

 それにしてもおかしな称号が増えているが……マネージャー?

 いや、確かにそのような仕事はしているけど……これ本当、一体誰が判断してつけてるんだろうな。

 謎すぎる……。

 まぁ、いい。

 今回の探索の目的は、二つある。

 一つは、今の俺がどこまで魔物相手に戦えるか、迷宮にどれほどまで通用するか。

 それを確かめること。

 そしてもう一つは、今まで相対してきた敵よりも強い敵に挑み、ステータスを上げることだ。

 どちらも達成するためには、いわゆる迷宮でも中層と言われる階層まで潜らなければならないだろう。

 俺は覚悟を決めて、迷宮の入り口に歩を進めた。

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