第206話 《換金所》

「……いつ来ても盛況だな」


 迷宮入り口を覆う建造物、その中に《冒険者協会》の《換金所》はあった。

 かなり面積的に広く取られているが、これは大勢人が来るのはもちろんのこと、冒険者から素材を買い取るときにその素材を提出してもらうため、それなりの広さがないと問題があるからだった。

 小さなものや特に汚れなどが存在しないものであればカウンターに持って行けば直接買い取ってもらえるし、魔物そのものや魔物から剥ぎ取ったりして洗浄する必要があるものなどに関しては奥にいくつか個室が用意してあるので、そこで解体や提出を行うことになる。

 魔物の中にはとてつもなく巨大なものもいて、そういうものを持ってきて解体したい、なんて場合には流石にここでというわけにはいかない。

 体育館のような広さの建物が外にあり、そちらで、ということになる。

 普段は冒険者たちの訓練などに使用されているため、遊んでいる施設というわけではない。

 

「……まずは……受付票か」


 とりあえず素材を売却するためにはその旨を申請する必要がある。

 郵便局や銀行のように、受付票を自動で発行する機械がここにもあり、タッチパネルで目的を選択すると受付票がピッ、と発行される。

 俺の場合はもちろん《素材鑑定・売却》が目的になる。

 ここでいう《素材鑑定》は、静さんが行うような鑑定士によるそれではなく、通常の職員が、その知識や技術で行うそれだ。

 鑑定士の数は少なく、全国に数百数千と存在する《換金所》にそれぞれ配置できるわけがないからだ。

 今まで見つかったことがないもの、レアなもの、品質が高度に求められるような品物の場合には、その場で提出した後、鑑定結果についてはまた後日、ということになる。

 こういう時は、鑑定士を呼ぶこともあるが、品物を鑑定士が常駐してる中央センターに送ってそこで鑑定するという構造になってるらしい。

 まぁこれ以上細かいことは分からないが、そんな感じだな。


『……238番のお客様、7番窓口までお越しください』


 機械音声のアナウンスが響き、俺は自分の持つ受付票を確認する。

 そこにはしっかり238番、との記載があり、あぁ、俺かと7番窓口まで急いだ。


 ******


「……本日のご用件は素材の鑑定、売却ということでよろしいでしょうか?」


 窓口に行くと、早速そう尋ねられる。

 聞いてきたのは二十代前半の女性職員であり、洗練された美しさを感じる。

 《冒険者協会》は冒険者というものが生まれて以来、まず潰れることのない存在であり、そのために非常に良い就職先として知られている。

 それがために、職員のレベルは総じて高い。

 その上、受付となると美人が配置されることが多いらしいと聞いたことがある。

 流石に今の時代にその感じはまずいんじゃないか、という気がするが、実際にこうして目にすると正しい噂なのかもという気がすごくする。

 実際的にも冒険者の比率は女性より男性に偏りがちであることから、美人が受付をやった方が集客的にも良さそうではある。

 うちのギルドは結構、女性が多い気がするが、一般的に女性はたとえ適性があっても冒険者を選ぼうとはしない傾向があるのだ。

 その理由は簡単で、冒険者は死の危険が他の職業より段違いだからだ。

 その辺り、女性の方が現実的にものを考えるのだろうな……男はその辺がバカだから、一攫千金が狙えるなら命でもベットする。

 《冒険者協会》の職員の比率は逆に女性の方が高く、それは冒険者をするよりも安定していて、かつ安全だからだ。

 給料も高い。

 代わりに倍率は相当高く、数千人の職員を抱えてなお、二十倍以上の狭き門である。

 ある意味冒険者になるよりも大変なのだよな……。

 そんなわけで、この受付の女性もそんな高き障害を越えて職員の地位を手に入れたエリートなのだった。

 そんな彼女に、俺は言う。


「はい、今日《騎士の巣窟》の第一階層で魔石や素材を得てきたので、売却したくて」


「第一階層ですか……承知しました。でしたら、この場に置いていただけますか?」


 そう言われて、俺は少し面食らう。

 なぜと言って、ちょっと量が量であるからだ。

 受付カウンターは、ブースごとに区切られていて、結構な広さではある。

 これだけの広さがあれば、俺がとってきたもの全ておくことは普通に出来るが、それでもちょっと多いような気はするのだ。

 だから俺は尋ねる。


「……いいのですか?」


「……? はい。第一階層を探索されている方はみんなそうされますから」


 そうはっきり言い切られたら、文句を言うのもおかしい。

 それにみんながやってるなら、まぁいいかとも。

 日本人というのはみんなで渡れば怖くない精神が基本だから。

 と、そんなことを思いつつ俺は頷いて、


「わかりました。では……」


 と、収納袋から、魔石や素材を出して重ねていく。

 最初の方は、うん、うん、と頷いていた受付のお姉さんだったが、途中から徐々に目を見開き、半ば頃には、


「ちょ、ちょっと待っていただけますか!? これ以上は流石に……」


 と言い出した。

 俺は首を傾げて、


「えっと……? どうすれば……」


 と尋ねた。

 すると彼女は言った。


「こ、個室の方を用意しますので……少々ここでお待ちを」


 そう言ってどこかにかけて行った。

 何か問題があったのだろうか。

 やっぱり量が多かったか?

 カウンターの上に山盛りになった魔石を見ながら、そんなことを思った俺だった。

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