第252話 説明
「向こうの世界って……あんた、マジで何者だ? 神様か何かだとでも?」
俺が驚きつつもそう尋ねると、彼女は言う。
『……そんなようなものです。それより、貴方の今の状況は私共としましてもイレギュラーでした。そもそも迷宮は多世界間を繋ぐゲートとしての役割を期待されているものではありますが、地球人類はそれに見合った適応が出来ていないのです。一部に関してはその限りではないようですが……まず《オリジン》の誕生が早すぎましたね。この世界に来れたのも、それが原因ではありますが……とはいえ一度開いたものを完全に閉じることは不可能でしょう。なので、貴方を鍵として一部開いておき、少しずつ扉を開けていくのが良いかと思っているのですが』
一息で色々なことを言われた気がする。
というか、ほとんど独り言のように語られた。
こいつ、俺に理解させるつもりはあるのだろうかという感じがすごい。
とにかく、要点だけは教えてもらわなければならないと俺は言う。
「……俺は、帰れるのか?」
すると意外にも彼女は普通に答えた。
『帰れますよ。しかし、少しだけ時間が必要ですね。失礼……』
そして俺に近づいてきて、額に触れた。
すると、何かよくわからないエネルギーが流れたように体がビリッ、とする。
「……何をした!?」
『アンカーを打ちました。この世界と、地球の座標がはっきりしていなければ、送れるものも送れませんから。後は、迷宮の転移層に行けば……地球とこの世界の繋がりはおおむね二週間に一度、十二時間ほどですので、それくらいですね。この世界でやり残したことがあれば、片付けていかれたらいかがですか。まぁ、行き来することは普通に可能ですので、また来た時にもでも可能ですが』
「行き来できるのか……都合が良すぎないか?」
『それは何に対してですか? そもそも迷宮自体、とある者達の都合の為に作り上げられた存在ですから、それくらいのことが出来なければ意味がないのですよね』
「迷宮は……いったいなんなんだ?」
『先ほども言いましたが、世界間を繋ぐゲート、道、回廊です。あそこを通り、他の世界へ行くためのもの。魔物が発生するのは余剰エネルギーの問題ですが……その辺りは貴方には理解しきれないでしょう。いずれ、貴方の世界の誰かが解明するかも知れませんが』
「……そうか。迷宮の転移層っていうのは?」
『特定の迷宮の特定の層に、他世界と繋がりやすい層があるのです。貴方がここに来たのは、まさにその時いた迷宮のその層が、そういったところだったからです』
「俺が地球に戻る為には、そういう迷宮を探す必要があるのか……?」
『その通り……なのですが、それも人間には大変でしょう。《ステータスプレート》に機能を追加しておきますので、それで確認してください。《世界》欄を設け、《全世界》《現在世界》《所属世界》の欄も追加します。地球に戻りたいのであれば、《所属世界》の欄をタップすれば、どの迷宮のどの層に、いつ入ればいいのか表示されます。その他の細かいところは自分で試してみてください。あぁ、それと、その欄については《オリジン》である貴方のみにしか存在しないので、他の人に見せびらかすことは避けてください。非表示にすれば他の欄と同じく見られることはありません。製作者も気づくことはないでしょう……こんなところですね。何か聞きたいことは?』
「い、いや……大体わかった……あぁ、そうだ、ついでだけど、ゴズラグが俺に最初絡んできたのは……?」
『……彼には申し訳ないことをしましたね。ここに連れてくるように、暗示をかけたのですが、変な効き目が出てしまったようで……』
そう言った女の表情は、どことなく人間臭かった。
それでなぜか、信用してもよさそうに思えた。
まぁ嘘だったら戻れないだけだしな。
「そうか。ゴズラグはちゃんと目覚めるんだな?」
『酔いが覚めれば。宿でも家でも寝かせておけばいいでしょう。それでは、私もそろそろ力の限界なので……失礼します』
「えっ、ちょ、待……あぁ」
言っている間に、女の姿はさっと消えてしまった。
《ステータスプレート》を確認する。
するとあの女が言ったように、欄が新たに追加されており、今のが夢でないことを証明していた。
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