第588話 まとまる

「必ずしも上から選ぶ必要はないんじゃねぇか? 大事なのはしっかり逸れた奴らを見つけて、ここまで連れて帰って来られることだろ?」


 他の冒険者がそう言った。

 話し合いをリードしている冒険者はそれに頷いて、


「確かにそうだ……だが誰が向いてるかは分からないからな。出来ること大まかにでいいから開示してくれないか?」


 そう言った。

 本来、冒険者の能力について語ることはそれほど多くないが、有名な冒険者や特殊な力を持っている場合には、特に喧伝せずとも人伝に噂として広がってみんな知っている、なんてことも多い。

 ただ、ここにいる面々はそこまで珍しい力を持っている者もいないようだった。

 せいぜい、斥候に向いているのが何人かいるくらいか。

 あとは、それこそ有名な冒険者として雹菜はくながいるかなという感じだ。

 まぁ、そうなると必然的に選ばれるメンバーは決まってくる。


「そういう感じだと……まず、白宮さん、あんたは決まりだろ。どうしても嫌だってんなら話は別だが……」


 まずはそうなるだろうな。

 ここで一番強いのは、おそらく雹菜だからだ。

 ただ単純に強さだけで選ぶ必要がないのはもちろんだが、それでも敵地に深く入り込むことになる。

 それを考えるとある程度以上の戦力は必要で、一番強いだろう人間は入れておきたいとなるのが人情だ。

 これに雹菜は、


「いいえ、参加するわ。ただ条件……というわけじゃないけど、うちのメンバーでもあるこの人も連れて行きたいんだけど」


「そっちの兄ちゃんか。まさか彼氏だから連れて行きたい……って、あんたがそんな若いバカみたいなこと言うわけねぇのは分かってる。なんか理由があるんだな?」


 わざわざそんなことを言ったのは、他のメンツの中でそういう視線を一瞬向けた奴がいたのに気付いたからだろう。

 不満はさっさと公的な場所で潰しておいた方がいいという配慮だ。

 これに雹菜はもちろん気付いていて話す。


「ええ。この人はこれで結構な強化率のある補助術師なのよ。隠密系の補助もかけられるから今回の任務にはうってつけだわ」


「なるほどな。だが戦闘能力はどうなんだ? あんまり足手纏いになるようなら、まずいぞ」


「それも安心してほしい。私とも普通に打ち合える程度はあるから。流石にまだ簡単には負けないけど……いずれ抜かれるのは間違いないわ」


 これには他の冒険者たちも驚いたようで、


「白宮雹菜と打ち合える?」「いやいや、ありえねぇだろ……マジ?」「こんな場で嘘言うわけないじゃん。それに確かに隙はないし」「そういうことなら何も問題ねぇな」「しかし無名でもそういう奴っているもんだなぁ」


 そんな会話がなされる。

 それに話し合いをリードしてる冒険者がパンパン、と手を叩き、一旦静めると、


「ま、全員納得ってことでいいな。そんだけ実力あるなら俺も文句はねぇ。他には……斥候役二人くらいと……言い出しっぺというか、俺も参加すべきだろうな。十人以上だとまずいってことだから、あと四人は……よし、じゃ、今手をあげた奴らで決定だ。それでいいな?」


 そう言って話をまとめたのだった。

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