第587話 軍の方針
「なるほど……そうなると、軍としてはどのように動かれるおつもりですか?」
冒険者の一人がそう尋ねた。
これは大事な質問だろう。
その場にいる冒険者たちはみな真剣な顔でザルブ将軍を見つめる。
将軍の方も、ここで答えを間違えると冒険者たちが離れていくだろうと言うことはわかっているようで、頷いて言う。
「うむ。もちろんだが、孤立している救世主様方をお救いする方向で動きたい。だが、先ほども言ったように、十人以上が集まって動くと、それを察知されてしまうのだ。だから、軍として何百、何千人で救いに行くと言うのはあまり現実的とは言えない」
それは確かにそうだ。
先ほど言っていた情報からすると当然にそういう話になる。
ではどうするか、ということだが、ここで話しただけあってそれなりに考えていたらしい。
ザルブ将軍は続ける。
「……そのため、救出に向かう少数精鋭と、周辺の敵を引きつける餌の役割を担う軍とで役割分担をし、ことを為すのが合理的ではないか、と思っている。いかがだろうか」
「それはつまり……我々冒険者の中から精鋭が救出に向かう、ただしこちらに逃走するための道を開ける必要があるから、軍がその道から《虫の魔物》をどかすために餌になる、とそういう感じでしょうか?」
冒険者の一人がそう言った。
今の一言だけでよくそこまで推測できるな、と言う感じだが、この場に集まっている冒険者たちはみな、腕利きという事になるから納得はいくかな。
俺が経験不足なだけだ。
ザルブ将軍は頷いて答える。
「まさにそういうことだ。孤立している彼らは周囲を《虫の魔物》たちにゆるやかに囲まれている状況にあるわけだが……そのうちの一部を軍に引き付けられれば、それなりの隙が出来る。そこをうまく抜けてもらうことで救出を、と思っている。我々友軍がいる方角などを、彼らは完全には把握できていないだろうし、またそのための道もはっきりとは分かっていないだろうから、案内役の側面が強くなるな。それでも、途中では《虫の魔物》との遭遇が想定されるから、十分な戦力を持つ者たちをそちら側で選定してほしい。一応、通るべき道筋についてはある程度の地図は存在しているから、それを基礎にしてもらうつもりだが……それでも臨機応変さも求められる。大変な任務になるが……」
「いえ、我々としては彼らについては見捨てる、という選択肢が取られないだけでもありがたいです。軍に残る冒険者たちの配置については……」
「それについてはこちら側の責任者たちと相談して決めてもらう予定だ。すでにここに集まっているから、まずは精鋭の選抜をしてもらい、その後、軍への配置の話をお願いしたい」
「わかりました。では一旦、冒険者たちで話し合いますね」
そして、天幕の一角に俺たちは集まる。
「よし、そう言うことになった。俺が主に喋ってて悪かったな」
ザルブ将軍と主体になって話していた冒険者が苦笑しながらそう言った。
人好きのする顔で、なんだか空気が和む。
誰も彼を責めるようなことはない。
誰かがやるべきことをやってくれていただけだ。
「で、精鋭はどうする? 上から順番に行くか?」
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