「だが、その前に少しばかり問題がある」

　ザルブ将軍がそう呟いたので、冒険者のうちの一人が尋ねる。

「問題ですか？　それは一体……」

「実は……というか、これについては救世主様方の方が、心配されていることかと思うのだが……」

「俺たちの方が……まさか、ここに来ていない他の冒険者たちの！？」

　ふと気づいたように誰かがそう叫ぶと、ザルブ将軍は頷いた。

「その通りだ。我々もできる限り、多くの救世主様方に参加してほしいゆえ、ここにいないのであれば我が国のどこかにいるのではと探させてはいたのだ。しかし、それでは見つからなかった」

「それでは……」

「だが、あくまでもそれは我が国で、の話だ。《虫の魔物》たちの領域となるとまた異なる」

「《虫の魔物》たちの領域？」

　首を傾げる俺たちに、ザルブ将軍は地図を指し示しながら説明する。

「まず大雑把にだが、この辺りが我が国だ。それは分かるな……そして、《虫の魔物》たちの領域とはここから西を意味する」

「西……確かに国境線がありますけど、《虫の魔物》たちは突然現れた存在であって、国など持っていないのでは？」

「鋭い指摘だ。そしてそれはそうなのだが、そもそもこの、今《虫の魔物》たちと領域と呼んでいる場所は、元から我が国の管理外でな。さまざまな理由で手が出せていない場所なのだ」

　なるほど、未踏の地ということかな。

　大量の《虫の魔物》たちがどの辺りからやってくるのか、その辺から湧き出しているのか、と思っていたが、それはその《虫の魔物》たちの領域というわけか。

　ただ、おそらくはこの世界ではない、異界の存在であるとも考えられるため、あくまでも経由地がそこ、なのだろうと思われるが……。

「話は分かりました。それで、そこに俺たちの仲間が？」

「うむ、そういうことだ。我が国も別にここに《虫の魔物》たちの拠点があるだろうと理解していて、手をこまねいてばかりいたわけではない。定期的に斥候は送っている。まぁ、それも救世主様方がくる以前はまず帰ってくることがなかったわけだが……救世主様方が奮戦してくれて居るお陰で、帰還率がだいぶ上がってきていてな。最近はかなり情報を得られるようになってきているのだ。だからこそ、今回構成に出ようという話にもなっているわけだが」

　俺たちの努力のお陰か。

　やったことが無駄ではなかったようで、これについては素直に嬉しいな。

「しかし、《虫の魔物》たちの領域ということは、そこには大量の《虫の魔物》がいるということですよね。俺たちの仲間も、帰還するのが難しいのでしょうか」

　出来ていれば、その斥候たちと共に戻ってきていただろう。

　それが出来ていないということは……。

「まさにな。斥候の情報によれば、この辺りにいるのは間違いない。事実、そこで話をして、それから戻ってきてる。ただ、共に帰還しようという話をしたら、数が数だから難しいと言われたようだ。どうも、向こうには強力な索敵能力を持つ《虫の魔物》がいるそうで、十人以上で固まっていると確実に見つかってしまうらしい。それより、先に斥候には戻ってもらって、自分たちがとりあえずそこにいることを伝えてくれと頼まれたということだ」