第585話 会議

「確かにそうかもしれないが……達観してるな」


 俺が雹菜はくなにそう言うと、彼女は笑って言う。


「ずっと注目され続けると、ある日、突然そんな風に思うようになったりするものよ。どう生きるのかを決めるのは常に自分だもの。たとえそれが、世界にとって唯一かもしれない存在だったとしてもね」


「……そうだな。考えすぎても仕方がないか……」


「そうよ……あっ、皆、天幕の中に入っていくわ。私たちも行きましょ」


 どうやら時間が来たらしい。

 俺たちも天幕の中に進む。


 *****


「さて、ここで皆に集まってもらったのは言うまでもない。今後の我々の方針を決めるためだ。《虫の魔物》との決着をつけるため、ここからが正念場になる」


 一番前に立って、地図を前にそう言ったのは、この《前線基地》で最も偉いらしい蜥蜴人である、ザルブ将軍だった。

 蜥蜴人の軍組織は、一番上に国王が、その下に大将軍がいて、さらにその下に五人の将軍がいるという形をとっている。

 五人の将軍はそれぞれ一万人規模の軍団を率いていて、それがさらに細分化されていく、という感じらしい。

 だだ、なんだか少ない気もするが……全部で五万人だろう。

 まぁ、もちろん、それはそれでたくさんの蜥蜴人ではあるのだが、一つの世界全体から出てくる軍人の数としては小さいのではないか。

 ゲッコー王国単体と考えれば普通なのか?

 うーん、分からん。

 ただ、とりあえずその数だ、と覚えておくしかないか、今は。

 ザルブ将軍は続ける。


「今まで、我々蜥蜴人と、《虫の魔物》たちとの実力は常に拮抗していた。一進一退が基本で、場合によってはこちらがわずかに負けることもある……そのような戦況だった。しかし、今回、複数の砦を同時に攻められ、だがその攻勢を跳ね返したことは快挙である。その快挙に最も貢献してくれたのが、救世主の皆様だ。新しい戦力として、十分な実力を示してくれたと言える。だからこそ、これを機に積極的な攻撃に移りたいと考えているのだ……」


 なるほど。

 今までは積極的に攻撃に出ても、勝てるかどうか微妙だった。

 けれど俺たちがはっきりと実力を示し、そして今までの戦況と合わせて考えると、今こそ攻めるべきだと、そう決めたわけだ。

 

「もちろん、これに救世主の皆様が参加したくない、とおっしゃるのであれば話は別だが……いかがか」


 強制かと思ったが、意外にもちゃんと意思確認してくれるつもりらしい。

 ただ、これについては全員、覚悟は決まっているというか、今の状況で他の手段の取りようがないというの事実だ。

 だから代表して雹菜が言った。


「私としては問題ありませんので参加します。他の皆んなは?」


 彼女が口火を切ったからか、他の面々も、


「俺たちもかまわねぇよ」「あぁ、何もやることもねぇんだ」「帰るためにはやっぱりどうしてもそれが必要そうな気がするんだよね」「やるしかないだろ」


 そんなことを言いながら頷いた。

 これにザルブ将軍は頭を下げ、


「救世主の皆様の覚悟、しかと受け止めた。ぜひ、ともにくつわを並べて戦いましょうぞ!」


 そう言ったのだった。 

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