第584話 義務と覚悟
《前線基地》の中で最も大きな天幕に辿り着くと、そこには既に冒険者達が集まっていた。
とは言っても、ここに集まったのはこの《前線基地》にいる全冒険者というわけではない。 あくまで代表者だ。
何のか、というと実はこれからこの天幕でこれからのこと──つまりは《虫の魔物》に対する侵攻についての作戦会議が行われるのだ。
それで、主立った冒険者に参加して欲しいと乞われてここに来ている。
全員で十人くらいかな。
大体がB級冒険者でA級はいないようだ。
というか、この《前線基地》にA級冒険者はいないらしい。
A級は転移から免れることが出来たと言うことだろうか?
いや、そんな甘いもんじゃなさそうだが……。
ちなみに、代表者については昨日の夜になんとなくで決めて選ばれた。
大体が、ランクが高くてかつ、統率力があったり賢そうなタイプばかりだ。
雹菜は有名人で知られているというのも大きかったな。
もちろん、実力もちゃんと評価されてのことだ。
流石にこれをミーハーな理由だけで選ぶ奴は現実主義者の冒険者にはいない。
さて、そんな中に混じっている俺が不自然だと思うかも知れないが、これにははっきりととした理由がある。
ワスプがいるからだ。
《虫の魔物》対策なのだから、《虫の魔物》に直接意見を聞けるというのが一番いいに決まっている。
ワスプはそもそも色々な情報を持っているからな。
《オリジン》周りについてはどこまで話すか、昨日のうちにある程度の口裏合わせをしているが、基本的に俺が《オリジン》であることはもう、明かそうと思っている。
何せ、そうしなければ《蟲王》を倒すことはできないからだ。
証拠とかについてどうするかは悩ましいが、これについてはもう、《ステータスプレート》を見せるしかないな。
《ステータスプレート》が嘘をつかないことは皆よく知っているから、それで信じない奴はいないだろう。
出来ればあまり言いふらさないで欲しいが、今後の世界のことを考えると《オリジン》の存在と意味についてはもう隠すべきではなさそうだ。
地球が滅びるようなことになっては困る。
まぁ、それが俺だ、という部分については可能な限り隠して欲しいとは伝えるが……漏れてしまったら漏れてしまったときだ。
地球に戻ったら政府にも話さなければならないだろう。
「大丈夫? 緊張してる?」
雹菜がそう尋ねる。
俺はそれに頷く。
「まぁな……今まで秘密にしてたことをここで明かすんだから、そりゃあそうだ。それに、今地球で《オリジン》が俺一人だけかどうかは分からないが、《地球最初の》ってはっきり書いてあるしな。地球においては俺が《オリジン》のお第一人者になる……今までみたいに、お気楽な冒険者は出来なくなるかも知れないと思うとさ」
しかし雹菜は言う。
「そんなに重く考えなくても良いと思うけどね」
「え?」
「高位冒険者がそんな感じのこと言われることあるじゃない。みんなのために力を使えとか。でも、そんなの気にしてる高位冒険者はいないわ。いえ、もちろん魔物の被害とか減らしたいとか、そういうのはあるわよ。でも、高位冒険者だからって世間の声を真に受けて全てを義務として引き受けなきゃならないってことはないのよ。そうでしょ?」
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