第583話 行方

「さて、それじゃあいきましょうか」


 次の日の朝、食事を食べて着替えを済ませると、雹菜がそう言った。

 ちなみに食事はこの天幕ではなく、専用の天幕というか、場所があって、そちらで大勢とわいわいしながら食べた。

 これは昨日の夜も同じだな。

 なんというか、交流を深めるのには良かったように思う。

 この《前線基地》で初めて会った冒険者たちの顔や名前なども知ることが出来たし。

 ただ気になったのは、賀東さんと相良さんたちの顔がなかったことだろう。

 彼らもまた、この階層というかエリアに転移させられているはずなのだが、ここにいないというのは一体……。

 これについては雹菜も首を傾げていた。

 というか、正直彼らよりも俺らにとって重要なのは、慎と美佳の姿もなかったことだ。

 この突然の転移は、どうもこの蜥蜴人たちの国のあるエリアに来たことがある冒険者が対象のようであることは明らかだ。

 つまり、慎と美佳も来たことはあるため、どこかに転移させられていると考えるべきだ。

 それなのに姿がないというのは……。

 最悪の可能性として、ここに辿り着く前にどこかの砦において死んでしまった、というのはもちろんあった。

 だからそれを考えて昨日、今日と多くの冒険者と接触を持って、行方を知らないか尋ねて回った。

 しかし、いずれもそのような顔は見ていないという答えだった。

 逆に俺たちが聞かれることもあった。

 自分のギルドメンバーも飛ばされているはずなのだが、どこにもいないと。

 色々聞いて回ったが、それでも見た人間はいないと。

 もちろん、俺たちも見た覚えがなく、そして聞く限りにおいて見た記憶があるという者は見つからないということも言っていた。

 こういう諸々について鑑みるに、おそらく、賀東さんたちにしろ、慎たちにしろ、俺たちが飛ばされたような砦に転移させられたわけではなく、全く別のどこかに転移させられた可能性が高いのではないか、ということになった。

 他の可能性として、そもそも転移させられておらず、地球に残っているというのもあるが、この場合は全く心配はいらないのでこれについては考えない。

 しかし、どこかに飛ばされたとして、一体どこに、というのは問題だった。

 慎も美佳も、C級とは思えないほどに強い。

 それに賀東さんたちと同じところに飛ばされれていれば、戦力という意味ではかなり心強いだろう。

 けれどそれでも、この《前線基地》に合流できていないというのはなぜか……。


「ほら、創。早く行きましょう。今日は作戦会議だって言ってたじゃない」


「あぁ……慎たちのことを考えると心配でさ」


「そうね……でも、情報が全くないから、今のところは手のつけようがないわ。やるべきことをやらないと。それに慎くんたちなら、どんな難敵が現れても生き残ってくれる。そう信じましょう」


「……そうだな」

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