第582話 天幕

 ワスプの方から話せる情報はこれが限界だろう、と言うことになったので、とりあえず俺たちは与えられた天幕にて休むことにした。

 救世主……つまりは冒険者たちにはそれぞれ、天幕が与えられてそこで休養が可能なようだった。

 扱いは色々で、ただ、ランクに比例して与えられる天幕の豪華さは上がっていた。

 俺には四人一組で与えられる天幕を使うように言われたが、雹菜の方は一人で使える天幕を与えられたので、こっちに来たら、と言われて移った。 

 ワスプもいるし、本来なら四人で使えるはずの天幕を五人で使う羽目になってしまうのも申し訳がなく、ちょうどよかった。

 流石にC級冒険者ばかりだったので、皆、感じがよく、別に五人でも構わないとは言ってくれたのだが、やっぱりな。

 雹奈のところに移る話をしたら、冗談混じりに揶揄われたが、嫌な感じは一切しなかった。

 そもそも、この《前線基地に》来たときに抱き合ってしまったので、俺たちが付き合っている関係にあることはもう冒険者全体に広まっているようで、違和感はないとのことだ。

 中にはB級冒険者雹菜のファンだった、と言って血涙を流しそうな人もいたが、結局、まぁ仕方がないと納得していた。

 その辺の割り切りも、高位冒険者は早くて楽だ。

 

「……マジで広いな」


 雹菜が与えられた天幕に入ると、まずその広さからして俺が与えられたそれとは全く違っていた。

 三倍くらいの広さがある。

 別に、蜥蜴人兵士たちに俺たちの冒険者ランクがわかるわけではないので、どちらかというと、転移した直後の場所での闘いぶりやどれほど役に立ったか、によって扱いが変わっているのだと思う。

 事実、俺たちが転移した場所での《証》をもらっていた連中の天幕は豪華なのが多かった。

 雹菜のところはそもそもそう言うのがなかったっぽいからな。

 ここで差をつける的なことなのだろうか。

 蜥蜴人兵士たちに聞いてみなければ正確なところはわからないけどな。


「どういう仕組みなのかわからないけど、簡易的なシャワーとかもあるわよ。便利ね」


 雹菜がそう言う。


「俺が最初案内されたところにはなかったな……」


「じゃあどうやって汗を流すのよ」


「共用の風呂というかシャワーのある天幕を案内されたぞ。十個ぐらいブースがある感じの。蜥蜴人兵士たちとも共有するっぽいから、使う時は出来るだけ短時間で済ませて欲しいとか言われた」


「それは……面倒ね。ここから戻れればいいのだけど、無理っぽい状況じゃ、そこ使うしかないでしょうし」


 そうなのだ。

 落ち着いたし、一旦、日本に戻れないか、と思ったのだがどうも無理らしい。

 《イベント》欄を見てみると「※強制イベントにつき、終了するまで帰還できません」なんて新しく書いてあるのを見つけてしまった。

 雹菜以外の冒険者とも話してみたが、やはり彼らの《ステータスプレート》にその表示はあるのだという。


「いつになったら戻れるんだか……」


「わからないわね。《蟲王》を倒すまで、とかだったら結構きついわ」


「もう少し早めだとありがたいんだが」


「最悪の場合も考えておくべきね、これは……」

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