第581話 頭痛の理由
なぜ急にワスプに頭痛が襲ったのか。
少し考えてみて、あ、と思うことがあった。
「
そう言って彼女に目を合わせると、雹菜も頷いて答えた。
「梓さんと同じでしょうね。と言っても、梓さんは頭痛が、とかそういうこと言わないし、これは言えないっぽいのじゃとか言うだけだけど」
「あの人は色んな意味で規格外って感じだから……もしかしたら頭痛を感じてたのかも知れないけど、そういうことも黙っていそうだしな」
そんな話をしていると、ワスプが聞いてくる。
「梓さんって?」
「あぁ、俺たちのギルドの顧問をやってもらってる人なんだけど、別世界の《オリジン》らしくてな。色々詳しいんだ。ただ、なんでだか話せることと話せないことがあるみたいでさ。話してもらっても、一体何を言ってるのか不自然に妙な音に聞こえたりすることがある。ワスプに起こった頭痛は、それと似たようなもんで、話しちゃいけないことまで話そうとしたから起こったんじゃないかって思ってな」
「《オリジン》がもう一人いるの? というか別世界の? その人の世界は?」
「それは……分からない。本人があまり話したがらないからな。話せないのかもしれないが……」
ただ梓さんが自分の元いたところを少し話した時の感じからして、話したくない方のような気がした。
そもそも今もそこが残っているのかどうかすら怪しいように思えたな。
帰れない、とか言っていたし。
元の世界がなくて帰れないのか、なんらかの事情があって帰られないのか、どっちとも取れはするが……。
まぁいずれ話してくれる日も来るだろう。
可能な限り、情報を開示してくれようとする心は感じるからな。
「そうなんだ……でも近くに《オリジン》がもう一人いても、同じ世界の人じゃなくて良かったね」
「なんでだ? って喧嘩になるからか?」
「うん」
「もしかして近くにいたら戦いたくなる、とかそういうのもあったりする?」
闘争心を刺激されるとか、嫌悪感がすごいして殺したくなるとか。
そういう精神的な干渉を恐れて尋ねたが、幸いなことにこれには首を横に振ったワスプだった。
「そんなことにはならないよ。でも、《オリジン》の権能は分割されてるより集まった方が強いから、他にいたら奪い取った方が得、と考える者は多いよ。うちの《蟲王》なんてその典型だからね」
「なるほど、でもそもそもその権能とやらがあるのか、どう行使するのか、みたいなことすら俺は分かってなかったしな。いや、今もあんまり分からないが。他にいてもそんな状況じゃ喧嘩にはならなそうだが」
「そっか。それは、まだ他の《オリジン》とぶつかったことがないからだろうね。それこそ《蟲王》で試してみるといいよ。倒せたらの話になってしまうけど」
「やっぱり強いんだろ?」
俺一人とかじゃまず倒せないだろうな。
まぁこのフロアにはたくさん高位冒険者がいるわけだから、みんなでやって、最後の最後、必要な時に俺が出張るということになるだろうが……。
「強いよ。ものすごくね」
ワスプはそう言ったのだった。
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