第61話 制限
アイスゴブリンに向かって距離を詰め、その首筋を狙って剣を横薙ぎにすると、スパリ、という感じで抵抗なくその首が飛んでいった。
慎も似たようなことをしていて、ただ彼の場合、《腕力強化2》や《脚力強化2》といった、スキルを活用してのことだ。
俺はアーツである《天沢流魔術》をまだ使っていない。
使わずに、これだけのことが出来るようになっていた。
名前:天沢 創
年齢:17
称号:《スキルゼロ》《冒険者見習い》《地球最初のオリジン》……
腕力:25
魔力:65
耐久力:27
敏捷:29
器用:735
精神力:756
保有スキル:無し
保有アーツ:《天沢流魔術》
明らかに、ステータス上昇のお陰だ。
ここに来るまでに、二十体ほどのアイスゴブリンの魔力を吸収している。
もちろん、慎や美佳が吸収したのを確認した後に、そのうち霧散するであろうと思われるアイスゴブリンたちの遺体から、だ。
なぜそんなことを言うのかといえば、途中で、別に慎や美佳たちは自動で魔物の力を吸収するのだから、さっさと俺の方でも吸収してしまってもいいだろう……とぼんやり考えてアイスゴブリンたちの遺体から魔力を引っ張ろうとしたら、なんと驚くべきことに、慎や美佳の方に流れて行こうとしていた魔力まで、引っ張ることが出来てしまったのだ。
驚いて離すと、その後は自然に彼らの方に魔力が流れていったので安心したが、これって結構ヤバい話だなぁ、と深く思う。
つまり俺は本当の意味で《寄生》が出来てしまうのだ。
宿主の栄養となるはずの力まで、全て奪って。
こんな事実を知ってしまったら、俺をパーティーやギルドに入れるのは、誰だって避けたくなるだろう。
慎や美佳なら、長年の付き合いがあるからそれでも一緒にいてはくれるだろうが、そうでもない限りは難しい。
まぁ、多くの冒険者はこんな風に僅かながらの魔力の吸収を重ねていって強くなっていくなんてことを、実際に目で確認は出来ないから、その場合は大丈夫だろうが、高位冒険者たちは実感として理解しているようだからな。
雹菜のように見られるやつだっているだろう。
それを考えると、大手を振ってやれることではなさそうだった。
ま、この力が有用なのは間違い無いのだけど。
事実、今の俺のステータスはかなり上がっている。
しかし、残念なことというか、意外な制限のようなものも分かりつつある。
アイスゴブリンからの魔力吸収では、もはやステータスがなかなか上がらなくなっているのだ。
これがどういう理由なのかは分からないが、十体を超えたあたりから鈍化し始めた。
俺の能力の限界、という可能性すらあるが……そうだったらきつい話だな。
ま、今のところは保留としておこうと思う。
「それにしても創、だいぶ戦えるようになってきてるよな。最初の方はおっかなびっくりって感じだったが、今はもう俺に近いくらいには剣振れてるし、速い」
慎がそう言った。
「でも慎はまだまだ加減してるだろ? スキルも要所要所でうまく使ってるくらいだしな」
「そりゃ、たった一日で追いつかれたら堪ったもんじゃないさ。でも……普通よりずっと強くなるのが早いのは間違いないな。もしかしてスキルがなかなか得られないのは、スキルがなくても戦えるくらいに素の身体能力の上昇が早いとかかもしれないぞ」
「……無いとは言えないな。確かにかなり調子がいいんだ。ステータス自体も、結構上がってる」
「おっ、マジか。俺たちの方は……」
慎が美佳に目を向けると、
「私はあんまり上がってないわね。やっとさっき魔力が1あがったくらい?」
「俺も似たようなもんだな。二十体以上倒してこれくらいって分かっただけ、参考にはなったが、先は長そうだ」
「二人はもともと大分ステータス良かったからじゃないか?」
「それもありそうだが……」
そんなことを言いながら進んでいると、氷原にふと、壮麗な建物が現れたのが目に入る。
「あっ、あそこじゃない? ここの階層の《ボス部屋》の一つは」
美佳がそう言って指差した。
《ボス部屋》というのは俗称で、正式な名称ではないが、わかりやすいので多くの冒険者が使っている名詞だ。
その内容は分かりやすく、ボスに値する魔物が守護している部屋、ということになる。
つまり、迷宮内を普通に闊歩してる魔物よりも、一段も二段も上の魔物がそこにはいるわけだ。
にもかかわらず、冒険者たちはここを目指して迷宮探索をする。
その理由は簡単で、いわゆるボスドロップ、というものがあったり、普通の魔物を倒した時とは比較にならない、力の上昇を感じたり、新しいスキルを得たり、といったことがよく起こることが、経験的に知られているからだった。
「確かここのボスは……」
俺が思い出しながらそういうと、その先を慎が継ぐ。
「アイスゴブリンチーフと、ソルジャーだな。だいたい、五匹くらいで出てくるはずだった……」
「……中、覗いてみる?」
美佳がそう言って、俺と慎は顔を見合わせる。
「見るだけならいいと思うけど……戦うのはちょっとな」
俺がそう言うと慎は、
「ま、あんまり無茶はな。見るだけ見て帰るか。入っても出られるタイプのはずだし」
そう答えたので、美佳も頷いて、
「じゃ、行ってみよう!」
と拳を振り上げて走っていくのを、俺と慎は苦笑しながら追いかけたのだった。
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