第62話 妙な声
迷宮内に鎮座する、誰が作ったとも知れない神殿、その入り口と思しき重厚な扉は、俺たちが近づくとまるで自動ドアの如く、手も触れてもいないのに、ゴゴゴ、と音を立てながら開いていく。
「……こりゃ便利でいいな」
慎がそう呟いた。
「自分で開けるタイプも少なくないらしいけど、流石にここのは大きすぎるもんね……何かの配慮かしら?」
美佳がそう返したので、
「何のだよ……」
とゲンナリした表情で答える。
実際、こういう迷宮内の建物は誰が考えてどんな風に作り上げているのだろうな。
不思議だ。
だが、その答えは誰もくれないのだった。
「……中は……暗くて見えないな」
俺がそう言うと、美佳がその疑問に対する答えをくれる。
「ボス部屋にも色々なタイプがあるけど、中に入らないと見えないタイプもたまにあるって授業でやったじゃないの」
「あぁ、それは分かってるんだけど……この迷宮の第一階層ってそうだったか?」
「えーと……一応、来る前にある程度の情報は見たけど特に言及はなかった気がするわ」
迷宮の情報は、深い層になればなるほど、高位冒険者の間でだけ共有されてるとか、独占されるようになっていくが、浅い層に関してはむしろ、死傷率を下げるために公開されていることが多い。
第一階層くらいであれば、大体どこの迷宮であっても情報は公開されているものだ。
だからこそ、慎だってこのボス部屋に出現する魔物が何か、知っていた。
美佳もしっかり確認したのだろうし、俺もまたそうだった。
だが、ここのボス部屋が、外側から確認不可なタイプだったとは書いていなかったと思う。
「中に出現する魔物がはっきりとしてる場合は、その辺の情報は大雑把なことも少なくないから、別に変じゃないだろ。とりあえず入ろうぜ」
そう言って、慎がすい、と扉の中へと消えていく。
部屋と外との境界を慎が乗り越えると同時に、彼の姿は影に飲まれるように消えてしまった。
「じゃあ私も……」
と美佳が続こうとしたので、俺は、
「待てって! 何かおかしいような……」
と少し不安に思って止めるが、その瞬間、闇の向こうから、
「おい、どうしたんだよ、お前ら。早く来いって。別に何も問題なさそうだぞ」
と慎が中から顔を出した。
それから一旦外に出てくる。
「一通り見てみたが、変なことはないぜ。中心にやっぱりアイスゴブリンチーフとソルジャーがいたけど、ある程度近づかないと動かないっぽいし」
そんなことを言う慎に俺は、あっ、と思い、尋ねる。
「……もしかして、先に行って危険を確認してくれたのか?」
すると慎は少し苦笑して、
「おっと、バレたか」
と言ってくる。
俺は呆れて、
「お前、そんなことをしたら危ないだろ……一旦入ったら出られなくなるタイプだったらどうするんだよ」
と言うと、慎は堂々と答えた。
「その時は俺が閉じ込められるだけさ。どうせいるのはアイスゴブリンチーフとソルジャーだけだぞ。俺なら一人でもやれる」
「そうかもしれないけど……はぁ。まぁ、実際大丈夫だったんだから、いいか」
「そういうこった。お前らも見るだろ? 俺、先に入ってるから続けよ」
「おい、慎……あぁ、また行っちゃったな」
止める間もないとはこのことだ。
美佳も苦笑して、ただ慎の行動の意味も理解したようで、
「昔からああじゃない。兄貴風吹かせたいのよ……ま、実際、今一番この三人の中で強いのは慎だろうし、役目としては適当だったのかも。私もボス見てみたいから入るわ。創はその後で大丈夫よ」
そう言ってから、闇の中へと入っていく。
この状況で、俺が続かないということはできなかった。
そもそも、安全は確認されたのだ。
何の問題もない、と言っていい。
ただ、漠然とした不安感はあって……それに従っていればよかったのだ、と気づいた時には遅かった。
俺もまた、慎と美佳に続いて闇の中へ進む……そして、外と中を隔てる狭間を通り抜ける瞬間、俺の耳に声が響いた。
《オリジンの入場を確認します》
《特殊クエスト生成……イベントボス、《ゴブリン
《イベントボス討伐まで、退出不可となります。ご武運を》
……は?
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