第60話 成長の糧
アイスゴブリンたちはいずれも倒すことが出来たが、地面に伏した彼らの遺体の中には、まだ生前から宿っていた魔力が残っている。
そのうち、一体ずつからふっと浮き上がるように魔力が出てきて、それらは美佳と慎に流れ込んでいった。
二人は特にそのことには気づいてはいないようだった。
当然といえば当然だろう。
あくまでもアイスゴブリンの魔力の一部が流れたに過ぎないのだから。
ティッシュ一枚を肩に乗せられても重みじゃ気付きようがない、みたいなそんな感じである。
ただ、チリも積もれば山となる、という言葉がある通り、アイスゴブリンもたくさん倒していれば、いずれ目に見えた力の上昇として表に現れるだろう。
ただ、五匹くらいだと、こんなものだろうな。
そもそも、ものすごく弱い冒険者見習いならともかく、慎と美佳は見習いにしてはだいぶ力のある方だ。
余計にそうだ、ということだ。
対して俺の方はといえば、さっぱり俺の方に倒したアイスゴブリンの魔力が流れてくる気配はない。
なので、仕方なく雹菜とやった時と同じように、アイスゴブリンの魔力を動かし、自らの魔力と同化させた。
さらに……少し気になっていることがあった。
というのも、俺は、俺が倒した魔物の魔力ならそのように同化できるわけだが、それ以外に、他人の倒した魔物はどうなのか、ということである。
実のところこの点については雹菜とも話題に上がっていたのだが、試す前に俺の限界が来てしまったので、後回しになっていた。
それを今試してみても……いいのではないかな。
そう思った。
失敗した時のことを考えれば、雹菜と一緒にいる時にやるのが、安全性という意味では一番だが、そうやって何もかも雹菜におんぶに抱っこというのも気が引けた。
それになんとなく、大丈夫そうな気がするのだ。
これは根拠がないわけではなく、美佳が丸焦げにしたアイスゴブリンの遺体、そこから感じられる魔力の質や感触が、自分自身で倒したものとさして変わらないように思えるからだ。
だから、行けるはず……。
そう思って、話し込んでいる二人を後目に、静かに美佳と慎によって魔力を吸われることがなかったアイスゴブリンの魔力を操ってみる。
……やっぱり、か。
まず、普通に操ることができ、そしてさらに、自らの身に近づけること、体内に入れ込むこと、そして俺の魔力と同化することまで、自分で倒した場合と同じように出来てしまった。
その瞬間、ふっと美佳と慎が俺の方を振り向き、目を見開く。
「……? どうしたんだ?」
俺が首を傾げると、美佳がまず答える。
「……いえ、何か、創の気配が大きくなったような気がして……? 気のせいかしら」
「俺も同じものを感じたから、気のせいじゃないんじゃないか? ほら、もしかしてあれだろ。魔物を倒すと、その力を僅かながらに吸収できるっていうさ」
「あぁ、一応そういう説があるって習ったわね。だから迷宮の奥深くに潜る冒険者であればあるほど、強いって。でも実際に目で確認できるわけじゃないし、ただの鍛錬の結果だっていう人もいるけど」
「まぁな。でも、さっきまでの創と今の創、よくよく観察してみて、感じが違うだろ。やっぱりそういうことだって! なぁ、創、強くなった気、しないか!? スキル覚えられそうとかさ……」
ちょっと嬉しげだったのは、俺にスキルを身につけられる可能性が出てきたかもしれない、と考えたから、らしかった。
全くありがたい話だ。
まぁ、似たような力でもって強くなれそうな目処は立っているから、その見立ては間違ってはいない。
ただ、今のところは話せないから……でも、希望がありそうなことは、言っておきたかった。
いずれ、アーツについても二人には話すつもりはあるから、その布石としてもな。
「スキルは分からなけど、ちょっと腕力とか強くなったような気がするな……」
「おっ、やっぱりか? あっ、ステータスカード見てみろって!」
「お、おう……」
丁寧にわざわざ後ろを向いてまでそう言って来た慎。
ここまでされて見ないわけにもいかないだろう。
それに俺も俺で数値に変化がないか、気になってるしな……
どれどれ。
名前:天沢 創
年齢:17
称号:《スキルゼロ》《冒険者見習い》《地球最初のオリジン》……
腕力:13
魔力:59
耐久力:23
敏捷:24
器用:705
精神力:712
保有スキル:無し
保有アーツ:《天沢流魔術》
「……上がってるな」
俺がボソリと呟くと、美佳と慎が顔を見合わせて、
「やっぱり! 良かったわね!」
「よし! 次はスキルだ!」
いや、スキルはどうかな……と思うが、この結果は俺も結構驚きだ。
腕力魔力とかが1ずつ上がっている。
しょぼい数字の気もするが、アイスゴブリン三匹分くらいでこの結果は凄いのではないだろうか?
最初だからか、それともずっとこの上昇率なのかは謎だが……。
一番気になるのは、器用と精神だが、これらは上がりすぎなくらい上がっている。
なぜだ……。
分からない。
首を傾げる俺だったが、美佳と慎は、
「さぁ、先に進みましょう! 今日はボス部屋まで行けるかも!」
「扉見るくらいはいいしな。実際に挑むかどうかはそこで考えればいいさ」
そんなことを言っていたのだった。
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