第64話 VSゴブリン暗黒騎士
油断なく構える《ゴブリン
向こうとこちらの実力差は歴然としていて、だからこそどう出るべきか難しい。
奴が仕掛けてくるのを待つか、それともこちらから……?
「おい、創、どうする……? そもそもあいつは……」
「あれは《ゴブリン
詳しい能力はわからないが、名前から推測出来ることもあるだろう。
向かってこず、ひたすらに俺たちを向こうが観察しているから、伝えられた。
もちろん、その間も、俺たちは視線を外さない。
外したらその瞬間に襲ってくることが明らかだからだ。
「なんでお前そんなこと知って……いや、全部後だったな。《暗黒術》か。感覚に働きかける系統だが、受けたことがないな……」
《暗黒術》は人の精神に働きかけ、まやかしを見せたり、精神を狂わせたりすることに特化する系統だ。
人間にほとんど持っている者はいないと言われているが、魔物はそれに似た術を使う。
なんでこんな言い方になるかといえば、魔物の使う術が人間の持つスキルなどと全く同じかと言われると微妙なところだからだ。
俺から見ると、同じように感じられるのだが、世間的には分からないとされている。
ただ、魔力などのエネルギー源は同じと見ていいだろう。
そしてそうである以上、効果もほぼ同じものを使ってきているということになる。
だから、あの《ゴブリン
《ゴブリン
もちろん、違うかもしれないが、そうだったら、その時はその時だ。
「受けたら耐えられるか?」
俺が尋ねると、慎は難しそうな表情で答える。
「一応、耐性系スキルもいくつかある。だからお前よりは自信がある……そうだな、まず俺が奴に向かってみるか。お前は追撃を頼めるか」
「危険だぞ」
「ほぼ同時にかかればいい。《暗黒術》だけ受け切れば……あとは純粋な武術勝負に持ってける」
「だが多分、武術だって相当やばいぞ、あれ」
「わかってるさ。だけど俺にだってお前らに見せてない、切り札はある……やれるはずだ」
「……これ以上ウダウダも言ってられないか。向こうもやる気だ……慎」
「あぁ! うぉぉぉぉ!!!」
《ゴブリン
俺もほぼ同時に、しかし、慎とは反対方向から向かっていく。
その方が、視線も注意も分散できるはずだからだ……さらに。
「……二人とも、いくわ!」
そう後ろから声がかかると共に、そこから豪炎が走った。
それは美佳の《上級炎術》。
《上級炎術》と一口に言っても、それは実際には一つの術というより、複数の術から選択し、その上でスキルスイッチを押す、というようなものだという。
美佳はそのうちでも、《豪走火》と呼ばれている、地面を舐めるように走る鞭のような炎を放つものを選んだようだった。
《中級炎術》にも《走火》という、下位互換の術があるが、それとは比べものにならない力である。
まず色が違う。
青色の、完全燃焼した炎の色だ。
スキルの放つ炎などは、通常の物理現象とは異なっているため、青だから高温、ということには必ずしもならないのだが、そこに込められた魔力の圧力から、威力の高さが理解できた。
それは俺たちだけでなく、《ゴブリン
単純な火力だけなら、これはB級冒険者にも匹敵する威力の術だから、当然だろう。
命中すれば、致命とまでは行かないまでも、かなり高いダメージを期待できるのではないか。
そう思った。
けれど……。
「……へっ。そうはいかねぇよ、なっ!!」
炎を真正面から受けた《ゴブリン
ただ、気を逸らすことには成功したようで、慎はその隙を狙って剣を振り下ろす。
「慎!」
しかし、すぐにその剣も黒い剣によって弾かれ、そのまま慎は吹き飛ぶ。
俺はそれを少し視線で追うも、ここで方向転換すれば間違いなく切られるだろう。
幸い、慎は弾かれただけで、まだ意識はあるようだった。
だから俺がここで取るべきは、
「……食らえ!」
《最下級身体強化《擬》》を発動させた状態での、突き込みを入れた。
慎を弾いたばかりの《ゴブリン《
「よし……がっ!!」
なんとか戦えるかもしれない、と思ったが、その瞬間、ものすごい勢いで《ゴブリン
しかしそんなもので十分な防御力が得られるはずもなく、俺はボールのように吹き飛ばされた。
……だが。
「……意外と、平気……か……?」
痛いには痛い。
具体的には思い切り殴られた時のような感覚は、する。
だが、骨が折れたという感じではなかった。
プロテクターに守られて、なんとかなった、みたいな、そんな感覚がする……。
俺はすぐに立ち上がった。
近くには慎もいて、やはり、まだ元気そうだ。
「……一撃食らわせてやったかよ」
「ほんのかすり傷だけどな……だが、やれそうだ。慎はまだ戦えるか?」
「誰に言ってんだ。まだ切り札叩き込んでねぇんだぜ。第二ラウンドと行こう。美佳も頼むぜ!」
「うんっ!」
まだ戦いは、始まったばかりだった。
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