第361話 天沢佳織の一日 2

「……終わった〜っ!!」


 そんな叫び声と共に、机の上に突っ伏して自らの疲れ具合をアピールする奈緒に、私は笑ってしまう。


「ふふっ。そんなに疲れた?」


「疲れたよぉ……私、運動とか全然向いてないのに、ここってそっちばっかりだから……」


「座学も通常科目もあるでしょ」


 狭霧高校は冒険者育成校であるとはいえ、最終的に冒険者の夢を諦めて、もしくは向いていないと途中で感じて、一般の大学へ入学する方向に進む生徒もそれなりにいる。

 もしくは、冒険者になるにしても、大成するのは難しいだろうと自覚して、引退後の道のための大学に入っておこうとか、そういうタイプも少なくない。

 奈緒はそのどれとも違っていて、冒険者もやるが、同時に研究者としての道にも進みたいという欲張り型だ。

 このタイプは毎日が勉強漬けになるために死ぬほど忙しくなる。

 終わった、とか言っているけれど、家に帰ってからも奈緒は教科書を開いて勉強をするのだろう。

 事実、彼女は座学に関してはほとんどがトップだ。

 私が学年トップでいられるのは、冒険者系の科目の比重が重く設定されているからなだけで、通常の高校だったら私は五、六番がせいぜいだ。

 

「通常科目は三分の一くらいだからなぁ……。他は全部、運動系だもん……」


「スキルに目覚めれば楽になるとは思うけど、一年だとまだあんまりだからね。なんか身についた?」


「スキル学で勉強した条件とか色々試してるけど、全然……。本当にあれで目覚めるのかな?」


「目覚めやすくなるとは言うけど、結局最後は人によるっていうからね。信じて頑張るしかないかな」


「ゴールの見えない努力は苦手だよ……点数つけられる試験の方が気が楽……」


「私からするとそっちの方がストレスなんだけど」


 そんな風に、益体もない会話をしていると、ホームルームのために担任が入ってくる。


「おう、全員席につけ!」


 うちのクラスの担任は、社会教諭の金山圭吾で、四十絡みの割とベテランの教師だった。

 冒険者育成校の一年生は、今までの普通の学校と異なる特殊な空間に投げ込まれることになるため、担任でつくのは冒険者系の科目を担当する教師であることが多いが、金山はそう言う意味でも信頼できると評価されているのだろう。

 実際、兄さんの担任も務めていて、兄さん曰く、若干荒いけど信頼できる人だという話だった。

 初めて会った時、兄さんの話をしたら、嬉しそうな表情で「そうか、あいつ活躍してるのか……いや、テレビとか風の噂でも結構聞くんだけどな。身近なやつからも聞くと安心するよ」とそんなことを言っていたので、私もこの人は信用できる人だと思ったくらいだ。

 そんな彼が、教室の生徒たちにおおまかな連絡事項を伝え、そして最後に、


「あぁ、そうだった。これは山田先生からの伝言だが……」


 と気になることを言った。

 山田というのは山田麗子のことで、うちのクラスの冒険者系科目の責任者だ。

 彼女からの伝言ということは、そちら方面の話になるが……。

 そして、金山先生は言う。


「うちのクラスの実技講習に来てくれるギルドが決まったぞ。《無色の団》から、ギルドリーダーのB級冒険者、白宮雹菜さんと、E級冒険者の天沢創さんが来てくれる。ギルドのことは知ってるな。ここ数年で創立されたギルドの中でも、トップクラスの注目を集めてるギルドだ。中々ない機会だから、学べるだけのことを学ぶようにとのことだ。あと、天沢さんの方は、うちの卒業生でもある。進路なんかの相談も乗ってくれるはずだから、聞きたいことがあれば事前に整理しておくといい。じゃあ、解散!」

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