第187話 結末
「……また両者ともに随分と容赦ない攻撃をしたもんだな……好き同士なんじゃないのか?」
美佳の《上級炎術》の熱気がここまで伝わってくる中、俺がそう呟く。
これに雹菜は言った。
「だからこそじゃない? それを理由に手加減なんてしたら逆に許せない、みたいなことってあるでしょ」
「そういうもんかねぇ……? 俺だったら手加減しちゃいそうだけどな……」
「なるほど、創はそういうタイプ、と。あっ、煙が晴れたわね……立ってるのは……」
美佳の《上級炎術》はステージ全体を炎と煙の支配する空間に変えていたから、今まで見えなかったのだ。
観客たちは固唾を呑んで見守っていたが、試合の結果はそれで分かった。
「流石に耐えきれなかったか。あっけない幕引きだったな」
ステージ上では膝をついてため息をついている慎の姿があった。
もはや動くことはできない、と言わんばかりに両手を掲げている。
降参、ということだな。
それを確認したアドベンチャラー雷豪が、
『……これ以上の試合は続行不可能、ということで、勝者は、山野選手!! みなさん、万雷の拍手を!』
とアナウンスし、会場は拍手の音で包まれた。
そんな中、雹菜は先ほどの俺の言葉に返答する。
「実力がある者同士の戦闘ほど、意外にあっけなく決まったりするものよ。わずかな差が致命傷になりかねないからね。それぞれが持つ攻撃力が高くて、掠るだけでも一般人なら死んでしまうようなものばかりだから」
「確かに言われてみればそうだな……そういう戦いになると、一瞬たりとも気を抜けない訳だ」
「そういうことね……それにしても、私たちの賭けもここで終わりみたいね。収支は……まぁ、勝ち越してるからいいか。優勝に賭けた方は残念ながら無駄になったけど」
「仕方ないんじゃないか? 明日はパーティー戦だし、今日はこれで二人とも全て出し切ったろ」
俺と雹菜がそんな話をしていると、他のギルドメンバーが首を傾げる。
まず、樹が言った。
「どうして無駄に? まだまだ試合は続くでしょ?」
続けてカズも、
「そうだぜ。山野が勝ったんだから、そのまま準決勝に進むんじゃねぇのか?」
そう言った。
しかし、巧が少し考えてから頷いて、
「……なるほど、出し切ったか。そういうことか、二人とも?」
と俺たちに尋ねてきたので、俺は言う。
「あぁ。そういうことだよ」
「ど、どういうことだよ? 俺たちにもわかるように説明しろよ」
カズの言葉に、雹菜が言う。
「そうね。まぁ、負けた慎くんは当然ここで終わりだけど、美佳の方もこれ以上戦うのは無理ってことよ」
「えっ?」
首を傾げるカズだが、樹がそこで理解したようで、
「……あー、はいはい、なるほどね。考えてみれば、さっきの《上級炎術》、とんでもない威力だったもんねぇ……」
「おい、俺にもわかるように言ってくれよ、樹……」
カズの言葉に、樹が、
「つまりは、もう魔力切れってことさ。あれだけの術を放ったんだ。次の試合に挑めるような魔力の残りは、もう美佳にはないんだよ。そういうことでしょ?」
と俺に確認を求める。
「まさにな。トーナメント戦だからそこの辺りは気をつけて配分するって二人とも言ってたんだけどなぁ……こればっかりは仕方ないだろうな。美佳はあれを放たないと慎の守りを抜けなかっただろうし。慎の方はまだ魔力残ってるけど、あいつは負けだしな」
「ははぁ、なるほどな。やっと俺にもわかったぜ」
それで、カズも納得したのだった。
それから、案の定アナウンスで美佳の棄権が告げられた。
残念なことだが、仕方がない。
観客席にやってきた美佳は、
「ごめんなさい、ちょっと考えなしすぎたわ」
と謝っていたが、別に誰も怒ってなどいないから問題はなかった。
そしてそのまま、ギルドメンバー全員で準決勝、決勝と観戦することになったが、決勝は去年、準優勝したらしい冒険者が順当に勝利して終わったのだった。
*****
後書きです。
今日はデータ消えることなく書けました!
それと星をたくさんくれて嬉しかったです。
星一万も見えて来てありがたくて…!
最近、読まれてるのかなぁと不安だったので…。
それにモチベーションになりますね!
新作もそのうち書こうと思ってるので、その時はそちらもよろしくお願いします!
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