第188話 しばしの休息
明日にはパーティー戦が迫っているとはいえ、美佳と慎は今日、十分な結果を残した。
ギルド新人戦初出場にして、準々決勝まで勝ち残り、美佳に至っては準決勝に参加する資格まで得た。
残念ながら魔力切れにより棄権という形になったとしても、これは相当の実績になる。
別のギルドへ転職しようとしたとしても、どこのギルドも諸手を挙げて出迎えてくれるくらいには、大きな実績だ。
「……だからこそ、二人ともうちのギルドやめないでね? お願いね?」
軽い打ち上げの中で、雹菜が二人に頼み込むようにそんなことを言っている。
半分冗談、半分本気だ。
これに二人は、
「雹菜……今更やめたりしないって。そもそも、創のことがあるんだからやめるわけにはいかないもの」
「ええ。俺も美佳も、創の親友のつもりなんですからね。情報が漏れる危険のある行動なんて取らないですよ」
そんなことを言ってくれる。
いつもながら二人とも、本当にいい幼馴染で友人だなと俺は深く思った。
「ありがたい話ね……でも、真面目な話、《オリジン》についてはいつかそのうちバレることも念頭に置いてるから、そこまで気にしなくてもいいわよ」
先ほどの冗談じみた態度とは異なり、はっきりとした口調でそう言った。
「そんなに簡単にバレるかね?」
俺が能天気にそんなことを言えば、雹菜は、
「実際、静さんには一発で見破られたじゃない。まぁ、彼女の《万物鑑定》の性能がぶっ壊れだったっていうのもあるけど、他にも梓さんとかは最初からそういうものがあると知っていたし、本人もそうだしね。私たちだけが握っている情報だと考えすぎるのは良くないでしょうよ」
「それは確かになぁ……オリジンって、俺や梓さん以外にもいるのかな」
「どうでしょうね。創はあくまでも地球で最初の、というだけに過ぎないみたいだから……二人目三人目がすでにいてもおかしくはないとは思うわ。それに、梓さんみたいな例外もね」
「世界って広いな」
「私たちが考えてる以上にね」
そんな話をしていると、静さんが、
「その梓さんっていう人、私も会ってみたいんですけど、次、いつ来るんですか?」
と尋ねてくる。
そういえば静さんは会ったことなかったな。
梓さんはうちのギルドに顧問、という形で入っているが、あの筒里にいることが多いために滅多に来ない。
もちろん《転職の祠》は彼女も使えるので、思った以上に来ようと思えば簡単に来られるのだが、色々とここのところ忙しいようで連絡もなかなかつかなかった。
「さぁ? あの人、本当に自由気ままというか神出鬼没というか、全く予測がつかないからなんとも言えないのよねぇ」
雹菜が口元に指を当てながらそう言う。
「……そんな人をよくギルドに入れましたね……」
「だって、面白そうじゃない? そもそもこのギルド自体、そんなところから始まってるしね。創が、面白そうだと私が思ったから。他のみんなを入れる時も、そういう感じだもの。静、あなたも」
「変わったギルドリーダーもいたものですよね……普通のギルドは、採算とか将来性とかで決めるものなのに」
「私も考えてないわけじゃないのよ? それに、みんな将来性はあると信じているし」
「確かに変わってますけど、みんな才能溢れる冒険者ばかりです」
「でしょ? 鑑定士にそう言われると私の見る目の正しさが分かるわね……あ、話を戻すけどどうして梓さんに会いたいの?」
「色々変わった方だと聞いたので、《見て》みたらどんな風に見えるのか、気になって」
「なるほどねぇ……見ない方がいい気もするけど」
「……? なぜです?」
「変わっているからよ。鑑定って、リスクゼロではないでしょ? レベルの低い鑑定士が、分不相応なものを見てしまって発狂した例を知っているわ」
「……それは。ですが私の力は……」
「わかってる。でもそれを持ってしても、梓さんは底がしれないのよね……ま、鑑定するなら本人にしてもいいか、聞いてからの方がいいわよ。あの人、そういう注意はちゃんとしてくれそうだしね」
「……心に留めておきます」
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