第189話 不意打ち
次の日のパーティー戦もまた、慎と美佳は健闘した。
なんとこちらもまた、準決勝まで勝ち進んだのだ。
魔力切れも特になく、試合も普通に行われたが、残念ながらそこで敗北してしまった。
相手の方が上手だったのと、そこまでに残していた余力の差が出た。
純粋な実力だとほぼ拮抗していたと思うが、相手の方が経験に分があった。
今回がギルド新人戦に出られる最後の年だったようで、気迫まで違っていたからな……。
結果、二人が戦ったそのペアは、パーティー戦、二人パーティーの部において優勝してしまった。
まぁ優勝するようなパーティーに負けたということで、二人もあまり文句はないようだ。
それでも……。
「一回戦でも二回戦でも、優勝候補に当たったりしなきゃ、俺たちが優勝してたぜ、絶対」
慎が観客席でそう言う。
ステージ上では今は、パーティー戦、四人パーティーの部の決勝戦が行われていた。
それをみんなで観戦しているのだ。
やはりこの人数で組むパーティーが多く、見応えがある。
ただ、個々人の能力的には、二人パーティーの部の方が強力な選手が多かったように思う。
四人パーティーを組んでいる選手たちは、どちらかというと連携が巧みなタイプばかりのようだ。
どちらが冒険者として優れているかはなんとも言えないところだが、これはこれで見ていて面白い。
「そうかもしれないな……というか、そもそもソロの部もパーティーの部も両方出場する方が少ないんだし、昨日の疲れもあったろ」
「まぁそれもあるかな……ただ魔力は回復してたし、やっぱり結局のところ、実力不足だったか」
「圧倒的な実力があれば、一回戦二回戦で誰と戦おうが関係ないもんな」
実際、雹菜がこういう大会に出ていれば、一人で全員屠って終わりだろうしな。
まぁ、彼女はもはや新人でもなんでもないので出れないが。
こういうところで戦っているのを見てみたい気もするが、雹菜がこういった公的な面前試合に出なくなってそれなりの年月が経っている。
別に人前に立つのが好きじゃないとかではなく、単純に忙しいのだ。
これからもその忙しさはなかなか解消されないだろうし、そういう雹菜を見られる日は遠いかな……。
そんなことを思っていると、
「おっ、決勝も終わったな。やっぱりあっちが勝ったか」
慎がステージを見てそう言う。
片方のパーティー全員が膝をついて降参を告げているところだった。
「見るからにうまく戦ってた方はあっちだったからな。バランスも相手の方は悪かったし」
「来年は俺たちも四人パーティーの部に出ようぜ。創と樹も加えれば出られる」
「だいぶ先の話だけどな……」
そしてステージ上ではそのまま表彰式に移り、大会自体の閉会式の準備がされようとしていた。
しかし、そこで会場でも関係者が大勢座っている位置にいる、一人の男が立ち上がり、そしてマイクを手にし、叫んだ。
「会場の皆様! 少々、お時間をいただきたい!」
閉会式までは見なくていいから帰ろうとしていた観客たちも、その声には足を止めた。
と言うのも、その声の主は、有名なギルドの代表者だったからだ。
「あれは……確か《クロタカ》の賀東修司じゃないか。会場にいたんだな」
俺がそう言うと、静さんが、
「昨日からいましたよ。あと、ほら、隣」
と言ったので見てみると、
「あれ? あれって静さんを勧誘しようとしてた中年男じゃ……」
「まさにそうですね。うーん、だからちょっと嫌な予感がするんですが……」
すると、賀東ははっきりとこちら、というか雹菜に視線を向ける。
そして、話を続けた。
「今回のギルド新人戦、皆さま楽しまれたでしょう。私もその例に漏れず、面白く見させてもらいました。多くの新人が、これからの冒険者業界を照らしてくれる……そんな希望の持てる試合だったと思います。……その中でも、特に目を引かれたのは、《無色の団》の二人でした。ソロの部にもパーティーの部にも出場した冒険者はそれなりにいましたが、どちらでも結果を残している者は少なかった。なのに、二人ともが初出場にしてこれほどの結果を……ですが、それも当然でしょう。《無色の団》のギルドリーダーは、皆様ご存じ、あの、白宮雹菜さんなのですから!」
そこで、スポットライトが雹菜に当たる。
会場の大きなモニターにも写り、雹菜は笑顔で手を振ったが、隣にいる俺にしか聞こえない声で、
「……やられたわね。みんな、これが元々あったサプライズイベントだと思ってるわ」
と言った。
「っていうと……」
「なんか私がやらされるってこと。もう運営にも手が回ってるんでしょうね。まぁいいんだけど……あの賀東さんは見た目の割にそこまで無茶なことやる人じゃないしね。こういう、突然のイベントみたいなのが好きな人だけど」
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