第213話 村

 声の聞こえたところにたどり着くと、そこには意外な存在がいた。


「……女の子? それに……冒険者か……?」


 女の子の方は十六、七歳かな、という感じで、冒険者と思しき人間は二十歳前後の女性だ。

 それだけなら別におかしくはないのだが、何か、妙な印象を受ける。

 それがなんなのか、パッとは浮かばなかったけれど、今はとりあえず……。


「手助けがいるか!?」


 一応そう尋ねた。

 尋ねた理由は、迷宮内における獲物の所有権とか分配とかの話で、仮にピンチに陥っている者がいたとしても、下手に手を出すと問題になることがあるからだな。

 しっかりと尋ねた、という形式があれば後で揉めることはそれほどない。

 それほど、ということは絶対にないというわけでもないというのが悲しいところだが。

 所詮は口約束だから、迷宮を出た後、何かを強制するのは難しいのだ。

 ただ、手助けを求めておいて、後々、そんなものいらなかった、みたいなことを言ってしまうと、その後、迷宮内で助けを求めてもオオカミ少年扱いされることになるので大抵はちゃんと約束は守るのだけどな。

 俺の目の前にいる人たちは……。


「……お願いします!」


 即座にそう返答してきた。

 冒険者らしき女性の方だな。

 俺はすぐに近づき、まず女性に襲い掛かっているコボルト騎士を後ろから切り倒す。

 不意打ちが卑怯とかそういうのはない。

 勝てばいいのである。

 他にも数体のコボルト騎士と魔術師がいたが、いずれも俺の敵ではなかった。

 魔物は倒せそうな相手から先に狙うことが多く、今回は俺よりも女性や少女の方に標的を定めていたから、後ろから狙いやすかったのだ。

 女性もそれをわかって、攻撃よりも防御の方に力を注いでいたので、俺がトドメを次々刺していくことで迅速に倒し切れたのだった。


 全てのコボルト騎士を倒した後、俺が近づくと、二人の女性はほっとした表情で、俺の方に向き直った。


「……助太刀、感謝します」


「助かりましたぁ……!」


 と、そこで初めて俺はしっかりと彼女たちを見たのだが、そこでやっと何に違和感を覚えていたか、分かった。

 妙に古臭いのだ。

 いや、こんなことを女性に言ったら怒られそうだが、そういうことではなくて……。

 なんと言えばいいかな。

 古臭い、と言ってもバブル時代の格好をした二人がいる、というわけではなく、もっと……現代的でない?中世的な格好に見える。

 特に、少女の方は迷宮に潜っているというのに厚手のゴワゴワとした麻のワンピースで、武具も持っていない。

 女性の方は……確かに冒険者といえるような武具を纏ってはいるのだが、あまり質のよくない金属製の軽鎧に、長剣で……まぁそれはおかしくないが、中に着ているのはやはり少女と同じように妙に質の悪そうな麻の服である。

 今時の冒険者っぽくないんだよな……現に俺は、インナーはファストファッションとかだけど、それと見比べてもなお、質が悪そうなのだ。

 別にファストファッションを馬鹿にしてるわけではないけど。

 この妙な違和感をなんと言えばいいのか、はっきりはしなかったが、とりあえず……。


「いや、こっちも助けられてよかったよ……ところで、二人とも、もう問題はないか? ないなら俺は行くけど……」


 色々疑問はあるし、違和感はあるが、こういう時はあまり深入りしないほうがいいだろう。

 事なかれ主義かもしれないが、そう思った俺は、足早にそこを去ろうと思ってそんなことを言った。

 けれど、そんな俺に、女性が、


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 助けてもらってお礼もなしになんてわけには……」


 少女も続けて、


「そうですよ! 村に行けば、食事くらいお出し出来ますし……」


 などと言ってくる。

 俺はこの言葉に大きく首を傾げた。


「……村?」


 なんだそれは。

 どういうことだ。

 そう思ったからだ。

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