第218話 大陸、世界の形

「エヴァルーク領では、ということはエヴァルーク伯爵は……何というか、その、いい領主、ということなんですかね?」


 物凄く浅い聞き方になってしまっている気はしているが、封建制とか領主とかその辺りの詳しい権利義務について、詳しい知識が俺にあるわけもない。

 最低限、世界史とかで学んだ中途半端な知識があるくらいで、行政については公民の知識からなんとなる推測して尋ねるくらいしかできない。

 そこからすると、領主がいい政治をしてるから、領地の治安がいいとかそういう感じなのかなと、それだけだ。

 そんな俺の質問に、グラズは答える。


「ええ、エヴァルーク伯爵は古くから王国に使える大貴族の一人ですが、中央とは比較的距離を置いているので……まぁ中央貴族のような腐敗とは無縁なのですな。一年のうちほとんどを領地で過ごされているので、領地の現状にも詳しく、適切な政策を行ってくださる。だからこのカーク村のような吹けば飛ぶような小さな村でも、比較的豊かな生活を送れておるのです」


「なるほど……それでも、魔物の被害はどうしようもないのですね……」


 ミリアとエリザはコボルト騎士に襲われていた。

 ああいう獣害と言えばいいのか、それとも治安維持対策とでもいえばいいのか、そういうのは行政の役割のように思っての言葉だった。

 

「その辺りについても、伯爵は騎士団を率いて定期的に魔物狩りを行っているので平和な方ですよ。ただどれだけ魔物狩りをしようとも、根絶できるようなものではないですからな……それに、魔物も生き物です。生きるためには、人を狩ることもまた自然の一部ではありましょう……」


「……厳しい話ですが、分かります」


 日本で言うならヒグマが人間を襲って食うようなもんだからな……まぁ人間を食べた時点で駆除対象だろうが、別にそれでヒグマが本質的な悪とかになるわけではないだろう。

 生きるためには何かを食べるしかない。

 その対象が動物だろうがシャケだろうが人だろうか、彼らからすれば同じもの、と言うだけだ。

 

「さて、地理についてはこの辺りで……いや、大陸についても一応お話ししておきましょうか。ハジメ殿がどの大陸から来たのかわかるやもしれませんし」


 どの大陸でもないのはもう確定的なのだが、知りたい情報ではあるので俺は頷く。


「はい……まずは、ここは何という大陸に……?」


 複数の大陸があることは話ぶりから分かっているからそんな聞き方になった。

 グラズは言う。


「ここは中央大陸、と呼ばれております。他にもいくつか名称はあるのですが……最も使われているのがそれですな。なぜ中央か、と言う点については、他の大陸がこの大陸を囲むように存在しているからです」


 囲むように?

 地図上、どの大陸を中央に置いてもそのように見えるのではないかと言う気がするが……。

 そう思ったが、グラズの言葉の続きを聞いて俺は理解する。


「《世界のはて》が見つかって千年が過ぎましたが……当然、その向こうに大陸などあるはずもなく、従って今、知られている大陸で世界の全てということになります。東西南北の《世界の涯》から見て、ちょうど中央に位置するのが中央大陸なのですな……そしてそれを囲む四つの大陸、南の竜月大陸、西の聖陽大陸、北の魔大陸に、そして東の払暁大陸があります」


 《世界の涯》、世界には果てがあるわけだ……この世界では。

 球体ではない?

 いや、果ての形がどのようになっているのかの説明はない。

 平坦な形で、滝のようになっているのか、それとも別か……。

 それは後で聞くか?

 とりあえず今は……。


「大陸は五つで全てですか?」


「いえ、最後の一つ、例外というか、どこにあるとは言い難い大陸として、浮遊大陸があります。これはあまり大きな大陸ではないのですが、大雑把に中央大陸の北東にあり、魔大陸に《神の鎖》によって係留されているそうですが……これは私も見たことがありませんな」

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