第480話 解散

「……最後のはちょっと卑怯だったんじゃねぇか?」


 賀東さん対B級冒険者五人の模擬戦が終わり、賀東さんが披露した様子でそう呟く。

 ただその表情には賞賛の色もあって、必ずしも非難しているというわけでもないようだった。

 彼から見れば、今回の《結果》は十分に納得できるものというか、満足できる内容だっただろろうからな。

 

「卑怯と言われても、みんながやれって言ったんだからしょうがないでしょ……ただ、本番ではよっぽどのことが無い限りやることじゃないけどね」


「それはそうだろうよ……他の奴ら全員をおとりにして、お前が最大出力で氷術を放つ、なんてな。避けようにも四人に逃げ場全部閉じられちまったし。その代わり、四人ごとまとめてダメージ負ったが」


 そう、模擬戦でB級冒険者達はそのような手法を採ったのだ。

 通常ならまずやらないことだろう。

 そんなやり方をしても、死んでしまったら意味が無いと普通は考えるからだ。

 ただ、ここには自らの命を半ば捨てている《影供》のメンバーもいる。

 だからこそだった。


「治癒術で回復できるレベルには抑えたから、明日の攻略も問題ないでしょう?」


 実際、雹菜の放った術は規模こそ大きかったが、威力は抑えられいた。

 だが、その程度、減衰されたものだったかはその場にいた人間皆が理解したので、それで決着となったのだ。

 術での寸止め、と言ったところかな。

 それを即座に理解して全員が足を止めるのも凄いなと俺は思ってしまったが。

 やはりそれだけの経験がないと、B級にはなれないということだ。


「ま、そうだな……それにあれを受けてみて、防御力とか耐性も上がってることが感じられたのもよかった。普段だったらあれくらいのを食らえば、死にはしないが明日ぐらいまで響いてただろう。その辺のさじ加減も分かってるのは……創と補助術の効果について研究してるからか」


「そうね。みんな今日、どれくらいの効果があるか知ったとは思うし、もうほとんど使いこなせるようになっているけど、それでも私が欠けられる方としては一番感覚が分かっているわ。だから、何か違和感があったら、私と創に聞いて」


「おう……じゃあ、あとは部分強化をいくつか試して、今日のところは解散と行くか」


「そうね」


 そして、それからも夕方くらいまでは補助術の訓練を続けた。

 やはり誰もが俺の補助術の効果を賞賛してくれたが、それ以上にすぐに効果を理解し、自らの動きを最適化していくその力にはこちらの方が驚かされた。

 これなら、きっと《転職の塔》の攻略もいけるだろう。

 

「よし、これで今日は終わりだ。後は明日の本番だぜ……今日は全員、酒とか呑まずに早めに眠れよ。解散!」


 賀東さんがそう言って、お開きとなる。

 とはいえ、彼らはもうしばらくドームに残るらしいが。

 これは、ここを借りたのが彼らで、撤収のための手続きがあるからだ。

 俺も手伝うべきかなと思ったが、


「こういうことは大きなギルドの方が慣れてるし、そのつもりで買って出てくれた役割だろうからいいのよ。私たちは明日、絶対に失敗しないようにすることを考えましょう」


 と雹菜が言ったので、それもそうか、とそのまま家に戻った俺たちだった。

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