第479話 賀東のアーツ
土岐さんは《影供》のメンバーであるから、相良さんと同じような傾向の術を使うのかな、とちょっと思っていた。
ギルドにはイメージカラーのようなものがあり、同じようなタイプのスキル持ちが集まりやすい傾向があるからだ。
別にそれを強制しているとかそういうわけでは全然ないのだが、そうなりがち、という話だな。
本来、冒険者はバランスのいいメンバーを揃えたほうがいいわけだし。
ただ組織として人を集めるとなると、どうしても難しい、という話だ。
まぁ特定のスキル持ちを集めてやってるところもあるが。
例えば治癒系ばかり集めるとかな。
そういうわけで、《影供》のリーダーである相良さんは影系のスキルが多いようだから、土岐さんもまたそうだろうという推測だったのだが、これは間違いらしい。
かかってくる賀東さんに対して土岐さんが使ったのは、水系のスキルだった。
大量の水が、賀東さんに向かって噴出される。
あんなものでA級が止まるのだろうか、と一瞬思ってしまうが、意外にも賀東さんの速度が少し下がった。
持っている大刀で払おうとするも、形のない水である。
全てを弾くのは難しく、少し押し返される形になったのだ。
これが他の属性だと違ってきただろうな。
例えば土……と思っていると、賀東さんの背後から巨大な岩の砲弾が迫ってきている。
出したのは……あぁ、世良さんか。
賀東さんのだいぶ後ろの方に世良さんがいた。
「チッ!」
ただ、後ろからとはいえ、賀東さんはしっかりと気づいたようだ。
振り返って岩に向き合う。
普通に考えて、たった一人の人間など簡単に叩き潰せそうな質量だが、賀東さんはその大剣に魔力を込めて、
「うらぁぁあ!!」
と振るった。
すると、岩はゴゴォン!という音を立てて、粉々に崩れていく。
賀東さんくらいの剣士になれば、岩くらいなら切断することも可能だろうが、あえてそうしなかったのだろう。
破片が飛んできても面倒臭いだろうしな……。
しかし、そんな一仕事終えた賀東さんを放って置くほど、B級冒険者たちは優しくはないようだ。
今度は五人同時に武器を振りかぶって賀東さんに別々の方向から迫る。
全員に対応するのはどう考えても無理……と思ったが、賀東さんはニヤリと微笑み、そして、
「……《
と叫んだ。
すると、彼に向かって武器を振り下ろしていた全員が、全く同時に弾かれたように後ろに吹き飛ぶ。
もちろん、全員がすぐに体勢を立て直して立ち上がったが……。
「あれって……」
と俺がつぶやくと、これには相良さんが答えてくれた。
「あれは私の記憶が確かならば彼の大刀の固有スキル《斬血塵界》……をアーツで再現したものですね」
「あれをアーツで……!?」
以前、賀東さんの《斬血塵界》は雹菜との戦いで見たが、あれはあの大刀を持っている時にだけ使えるスキルであり、しかもスキル後硬直があって使いにくいものだという話を聞いていた。
しかし、今の賀東さんにはそのような硬直はなく、すぐに動き出してみんなと切り結んでいる。
だから《斬血塵界》そのものではないことはすぐにわかったが……。
相良さんは続ける。
「ご存じなら話は早いです。やはり《斬血塵界》はスキル後硬直が長すぎますからね。使いづらかったので考案して練習していたら、いつの間にか身についていたそうですよ。ただ、《斬血塵界》より規模も威力も小さいようですが……」
「確かに、あの時見たものよりは……でも、同時に五人に攻撃できるってだけでも恐ろしいですよ……」
「私もそう思います。しかも、補助術の効果で相当威力が上がっているようですし……まぁそれは他のメンバーの術やスキルもですが」
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