第478話 一対五
「さぁ、やろうぜ」
賀東さんがそう言ってステージに向かう。
それについていくのは、相良さんと俺を除くメンバーだ。
つまりは、この場にいるB級全員ということになる。
賀東さん一人対B級冒険者五人、というかなり無茶な対戦になるが、A級というのは一般的なB級なら十人でも相手にできると言われているからな。
ただ、以前賀東さんに勝っている雹菜がいるから、一対五でも賀東さんが有利とも言えないが。
むしろ不利になるのかな。
ただ、あの時の賀東さんは手加減していた、とまでは言えないものの、何が何でも勝ってやるというつもりはなかった。
そもそも、《無色の団》にちょっかいをかけてくる人々を遠ざけるために、一芝居打ってくれたのであり、最初からガチでやり合うのであればやはり、雹菜がいても簡単に余裕があるとも言えない。
そう考えると、ちょうどいいくらいの力関係なのかもしれなかった。
「じゃあ頼むぜ、創!」
全員がステージに上がったところで賀東さんがそう言った。
俺はそして、そこにいる全員に《全体強化Ⅰ》をかける。
他のでも良かったが、そうなるとやっぱり今はまだ面倒だからな。
これから結界も張ってしまうし、そうなると俺の術も中に届きにくくなる。
それを考えると、この選択肢が一番だった。
他の補助は後で試させてもらうので別に構わない。
「……時間は三十分にしておきました! 時間がくる前に決着するか、手を止めてくださいね!」
一応、注意しておく。
そうしないと思わぬ事故が、なんて可能性もないではないからな。
まぁこんなこと俺よりも遥かにベテランしかいないのに言うことではないかもしれないが……。
けれど、ベテランはそういう基本的なことが大事であることをよく知っているようで、全員が手を挙げて同意を示してくれた。
やっぱあれだよな。
素直な人ほど上に行くんだよ……変な文句を言ってる奴よりもさ。
そんな気がした。
それから、
「……では、今回は私が開始の合図を務めさせてもらいます」
相良さんがそう叫ぶ。
それと同時に、ステージの上のみんなが、距離をとって構えた。
それを確認した相良さんは頷き、
「……それでは、試合、始めっ!!」
そう叫んだのだった。
瞬間、全員が風になる。
長期戦をするつもりはないということかな?
いや、でも補助術の感覚を確かめるためにはあんまり短期決戦も問題のような気がするが……。
そんなことを考えつつ、俺は俺以外のこの場にいる唯一の観戦者である相良さんに尋ねる。
「どういう試合運びになると思いますか?」
すると相良さんは、
「まぁ、そうですね……全員、君の補助術の効果をしっかりと噛み締めたいでしょうから、すぐに終わらせるつもりはないと思いますね。勝敗の方はまだなんとも言えませんが……」
そう答える。
けれど……。
「その割には、開始の合図と同時に全員が高速機動に移行したような気がしますが」
「あれこそまさに試しているのでしょうね。今までの自分の実戦での動きを、どの程度まで活用できるか。さっきまでフリーで試してましたけど、やはり目の前に戦うべき敵がいる状態とでは感覚も違ってきますから。ぶつかり合うのは、そういう確認があらかた済んだ後、でしょうが……と言っている間に、どうやらそれが終わったようです」
言われて見てみると、確かにみんなの動きが変わっていた。
賀東さんが積極的に大刀を振りかぶり、五人のうちの一人……まずは《影供》のB級に襲いかかる。
あれは確か、
三十代半ばの、冒険者として油が乗っている時期のひとだ。
そしてそれだけに引退が見えてきている人でもある。
それでもまだまだ十分に戦える実力者だが……。
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